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ブンちゃんの頼みごとは前触れもない。


「実加」

「うん」

「土曜日練習試合なんだけど」


それが明日であろうとお構いなしだ。というのもわたしが1度も断ったことがないからだろう。わたしも1度も断る気はないけれど。


「なにがいい?」

「肉」

「と野菜ね」

「ちぇっ」

「肉だけだと真田くん怒るじゃん」


練習試合のときはわたしがブンちゃんにお弁当を作ってあげることになっている。過去にわたしがお菓子を作ったのだと話をして、それを食べたいといったからあげた。そして幸いにも気に入ってくれたらしいブンちゃんはそれからわたしの作るご飯もお気に召したらしい。そんなことを経て、練習試合のときはお弁当を作ってあげることになった。(ちなみにわたしはマネージャーではない。)せっかくだからとなるべくブンちゃんの希望に沿っているのだけど前に1度リクエスト通りに肉まみれの、むしろお肉と白米しかないお弁当を作っていったときにはさすがに真田くんに咎められた。それまで希望の品を多めにするだけに留めてバランスを考えて作っていたからかあまり強くは言われなかったけど。ただそのとき真田くんがどれだけ部員のことを考えているのかが手に取るように分かったから、肉まみれのお弁当を作るのはやめようと決めた。だって部員の食生活まで気にかけて本気で心配するひとはそう居ないと思う。ましてやブンちゃんは大食いだからその時点で気にかけてはいると思うけど。何はともあれまるで親のように部員の栄養バランスを気にかける真田くんをあまり心配させるのはやめたいと思ったのだ。


「わたしも咎められるからね」

「え」

「咎められるよ」

「まじかよ」

「まじだよ」

「…それなら肉と野菜でいい」


ただ見た感じ真田くんは真田くんなりに部員と接している様子だったからその話は特にはしていない。だからもしかしたら真田くんがわたしを咎めたその真意も分かっていないのかも、と思ったけれどさすがにブンちゃんも真田くんのことを分かっているだろうから必要はないだろう。と思っていたらブンちゃんがいつもと違う行動に出た。唐突にわたしの頭を優しく撫でたのだ。


「いつもサンキューな」

「い、いつも川岸弁当のご利用ありがとうございます」

「なんだそれ」

「こ、こちらこそありがとうってことだよ」

「……おう」


あまりの唐突さに動揺したわたしは変なジョークにもなんにもならないことを口走ってしまった。川岸弁当ってなんだ。わたしはブンちゃんにしかお弁当作ったことないのに。







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