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「ごめん、待たせた」

「大丈夫だよ。はい、 お疲れ様」

「ん、さんきゅ」


翌日。ブンちゃんとわたしは結局ふたりで遊びに行くことにした。そして待っている間に飲んでいたいちごミルクを、走ってきてくれたらしいブンちゃんにあげるとブンちゃんは普通にそれを飲む。今までとなにも変わらない流れなのに、どきどき胸は高鳴る。意味合いが変わるだけで、いつもの動作にすら一喜一憂してしまうものらしいから恋愛って凄いんだなあ。


「そう言えば今日はどこ行くの?」

「映画見て、ゲーセン行くの」

「え」


つい最近もそんな流れで時を過ごした。小塚くん、という後輩くんと。それを知ってか知らずか、はたまたどういう意図があるのかわたしにはなにも分からず、ただ短く声をあげた。


「嫌だった?」


あ、このしてやったと言いたげな顔は分かっていて誘ったに違いない。自分から言うのも悔しいと思ったわたしはなんにも気にしていないように嫌じゃないよ?と言ってみせる。けどわたしがそう考えることもブンちゃんは分かっていたみたいで、少し面白そうに笑ってからわたしの手を引いた。


「……」


不意にわたしはその手を握り返す。そうして思い出される幸村くんの言葉にわたしは思考を巡らせた。今はブンちゃんの一番がわたしだから、こうして手を繋いでくれているけど、もしわたしがこのままなにも言わなかったら、いつか、いつか…。そう思うと胸がきゅうって苦しくなる。ああもう、"ラブ"の好きはこんなにもひとを我が儘にさせるものなのか。


「実加?どうかした?」


繋がれた手を見つめるわたしに、ブンちゃんが不思議そうに問う。ブンちゃんが一緒に居てくれない未来なんて、そんな時間なんていらない、そう思った。


「実加…?」

「あのね、ブンちゃん」

「ん?」


そう思うと、後先考えないままに、ただ素直にわたしは告げていた。


「わたし、ブンちゃんとおんなじ気持ちだった」

「は、?」

「わたしの好きも、"ライク"じゃなかった」

「!」


ブンちゃんが目を丸くするのと連動して、手に入るその力が少しだけ強くなる。わたしもまた少しだけ、離したくないという気持ちも込めて握る力を強める。


「ブンちゃんの一番は、ずっとわたしがいい。ブンちゃんの好きなひとは、ブンちゃんが優先するひとは、わたしがいい」

「実加…」

「他の子なんか、見ないで、わたしだけがいい」


気づいた想いが、口にした途端に溢れ出る。止めかたを知らない未熟なわたしはただただブンちゃんに伝えるだけだった。


「今までの距離も壊したくないけど、でも、ブンちゃんとずっと一緒に居たい。何歳になっても、ブンちゃんに隣にいてほしい。ブンちゃんが大切にする女の子はわたしだけがいい」

「……」

「…、……ブンちゃん?」


黙り込んでしまったブンちゃんにハッとして顔をあげるとブンちゃんは繋いでいない方の手で顔を覆っていた。その隙間から見える顔が、あかい。


「…あー、もう」

「?」

「ずるすぎだろぃ」


ぼそっと言うと不意にブンちゃんに手を引かれ、そのままブンちゃんとの距離が一気に縮められる。


「俺に合わせてる、とかじゃないんだよな?」


鼻と鼻が触れあいそうな距離で、ブンちゃんの真っ直ぐな真剣な視線から目をそらせない。わたしは顔が熱を持つのを感じながら、小さく頷くのが精一杯だった。するとブンちゃんは手を繋いだままでわたしからスッと一歩離れて、一つ小さく息を吐いた。


「実加」

「な、なに?」

「俺と、付き合ってください」


見たことのない、誰にも見せているのを見たことがない、緊張や強い意思や照れ、ブンちゃんのいろんな感情が少しずつ混ざっていて、それでいてすごく真剣で男の子の顔。そしてその言葉は、わたしたちの関係をようやく明確にする。


「よろしくお願いします、ブンちゃん」







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