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「失礼しまーす…」


ブンちゃんにああ言って出てきてしまった手前、余計に教室に戻りにくくなったわたしは仮病を使って1コマ目だけ休むことにした。しかし保健室の扉を軽くノックをしても先生の返事はなく。おそるおそる扉をあけるとそこには見知った顔。


「やあ、実加ちゃん」

「ゆ、幸村くん…」


そう、ブンちゃんたちの居るテニス部の部長さんでもある幸村くん。もちろん幸村くんも例外ではなく、わたしのことを知っている。


「まだ具合良くないの……?」

「ふふっ、サボり、だよ」

「えっ」

「今日は実験だから」

「あ、なるほど…」


幸村くんのことはブンちゃんからざっくりと事情を聞いている。だから心配だったけど実験だからというその言葉を聞いては納得した。あれから薬品の匂いが苦手になったらしいこともブンちゃんから聞いている。


「それで、実加ちゃんもサボり?」

「う」


確信があったのか、はたまたカマをかけただけなのか。幸村くんはわたしの反応を見ては小さく笑って、そして続ける。


「ブン太となにかあったの?それとも、小塚と、かな?」

「え」

「部長だからね、いろいろ知ってるよ」


にこにこ、穏やかなその笑みにはなんでも見透かされているような気がした。だからと言って仮病を使おうとしていたことを咎めることもせず、幸村くんはその理由もわたしが言うつもりがなければ聞かないよといった雰囲気だった。関わりが深いわけではない、だけど幸村くんとの距離は彼自身の雰囲気もあってなのかどこか安心するものがある。なんでも聞いてくれて尚且つそれを他人に知られることはない、と特別近しくはないのに確かにそう思えた。


「…口が裂けても、言わないでね?」

「ははっ、大丈夫だよ。俺の口は裂けないから」


分かっている、幸村くんの口は堅い。ただ前フリのように、そんなことを言ってしまった。






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