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「実加、ごめん。行こ」

「、うん」


放課後。短いミーティングが入ってしまったブンちゃんを校門近くの花壇で待っているとブンちゃんはタッタッと走ってきてくれた。その様子からミーティングが終わってすぐに来てくれたのだとすぐに察しがつき、嬉しいような照れ臭いような、なんだか一言では表しきれない感情だった。そんなわたしの感情などお構い無しにブンちゃんはわたしの手を、毎日そうしてるかのような流れで握る。もちろん毎日手を握っていたわけではない。距離ができる少し前に久し振りに握ったくらいだ。ただこの間は昔もこんな風に握ったなあ、とのんきに思っただけで終わったけどブンちゃんの気持ちを知っている今では握ることに特別な意味があるような気がして変に意識してしまう。わたしがどきどきする理由なんてないはずなのに、何故か胸が高鳴る。わけがわからない。


「実加」

「、ん?」

「返事、いらねーから」


そうして人混みを歩いている最中、周りの音にかき消されそうな声でブンちゃんは言った。小さい声で言われたそれはわたしにははっきりと聞こえた。だがしかしいらないとはどういうことか。


「我が儘だけど、壊れるくらいならこのままでいたい」

「……」

「つーかこのままがいい」

「え」

「変な話、俺と実加の好きが違ってもそれでいいんだよ」

「?」

「ライクでも、実加の中で俺が一番なら満足だってこと」


まーくんは、ブンちゃんは答えを急いでいないと言ったけど、全然違った。ブンちゃんは答えを求めてすらいない。というより求めたところでわたしがラブを理解してないからわたしのブンちゃんへの好きがライクの好きかラブの好きかの答えの出しようがないと考えてくれたような気がした。じゃないとそんな控えめなこと、ブンちゃんは言わないはずだ。


「実加、このチョコのやつでいい?」

「えっ、あっ、うん」


そんなブンちゃんは本当に今まで通りで、逆にわたしが何故かぎこちなさを持っていた。わたしこそいつも通りで居ていい気がするのに、自分でも首をかしげてしまうほどにぎこちなさがある。けれどもブンちゃんはそんなわたしに少し苦笑いをしつつも特にどうするわけでもなかった。それはブンちゃんなりの優しさだと思う。


「あ、そうだ実加」

「うん?」

「ごめん」

「へ?」


他愛のない会話を繰り広げながらアイスを食べ終わる頃。思い出した、というブンちゃんの口から出てきた謝罪。あまりにも唐突でアイスを落としそうになりつつその続きを待つ。もちろん何に対しての謝罪か分からないし謝られる心当たりもない。


「告白断るとき、好きな子が居るとか言ってたこと」

「、」

「実加の名前出してないとは言え、好きな子待たせてるって言ったのは迂闊だったなって。現に実加に被害があったわけだし」


驚いた。というか驚きしかなかった。だってわたしがブンちゃんに言わないようにお願いしてたのはあくまでわたしの名前を出すことであってそれ以外については(知らなかった部分も多々あるからどうしようもなかった話だけど)特になにを言おうがブンちゃんの勝手だったわけだ。だからわたしの名前を出したこと以外でブンちゃんが謝る必要はない。つまり今の謝罪もしなくていいはずなのだ。


「でも俺が言わなかったら違ってただろ」

「それは、そうかもしれないけど」

「ほら」

「だからってブンちゃんのせいってこともないんじゃ」

「いいんだよ、俺が謝っておきたかったから」


なんだこいつ。いい人過ぎる。と同時に鼓動が少し早まったような気がした。






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