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「!、」


まさかわたしが部活中に会いに来るなんて思わなかったんだろう。わたし自身思ってもいなかったことだ、ブンちゃんだって思ってるはずはない。ましてや口もきかなくなった今の状況では絶対に考えていなかったと思う。ブンちゃんはわたしの顔を見るなり目を丸くした。


「ブンちゃんに話があるんだけど」

「部活あんだけど」

「他の子の呼び出しに応じといてどの口がいうの」

「……」


言い返せるはずなどない。ブンちゃんは案の定、口を尖らせ目をそらした。


「なにが"俺に隠し事しねえって思ってた"だよ」

「は、」

「ブンちゃんに彼女が居たことどころか好きなひとが居るなんて1回も聞いたことないんだけど」

「!?」

「っていうか言い訳させてもらうとあの時まーくんが知ってたのは偶然ずぶ濡れのわたしに出くわして、ああいう風に協力してくれただけ。隠そうとしたのはブンちゃんに変に心配かけたり怒らせたりしたくなかっただけで信頼してなかったわけじゃないから」

「…まじかよ」

「それなのにブンちゃんなんにも聞いてくれないし口もきいてくれなくなるし!かと思えば今まで好きなひとが居るって言って女の子の告白断ってたって聞くし!最近その好きなひとと別れたとまで聞くし!自分だって隠し事してたくせになにさ!ばか!ばかブンちゃん!」


ぽろぽろ。わたしはヒートアップすると同時に泣いていた。胸はずきずき痛む。見て見ぬふりしてたけど、本当は苦しかった。今までブンちゃんと居るのが当たり前だったのに。それが突然消えたのだ。そしてブンちゃんには隠し事はされてないと信じて疑わなかったわたしの耳に入ってきたわたしの知らないブンちゃんの情報はそこに追い討ちをかけた。怒りにも似たその中には、寂しさや悲しさも同じくらいあったのだ。


「ブンちゃんのばか」

「実加」

「好きなひと居ないって前に言ってたじゃん」

「実加」

「なんで嘘ついてたの、好きなひと居るって言ってくれれば邪魔しなかったのに、」

「実加!」

「……」

「俺の話も、聞いて」


ブンちゃんはわたしの手を、わたしより大きくて逞しいその手でぎゅっと強く握った。そして真剣な目でわたしを見る。わたしは、目線をそらすことが出来なかった。


「好きだ」

「…………え?」

「実加が、好きだ」

「…、……」

「だから隠し事されるのがすげえ嫌だったし、俺が一番実加と仲が良いって思ってたから仁王が知ってるのが許せなかった。それに実加がいじめみたいなことされるとしたら俺がきっと原因だから、俺が日頃からちゃんと実加守ろうって思ってたから余計悔しかった」

「……」

「でも実加が被害受けたから、俺がそいつら見つけるまでは実加と少し距離置くしか守れねえんじゃないかって思って、同時に俺じゃなくて仁王の方を信頼してんだったら余計距離置いた方がいいなって。でも気づいたら実加とどうやって話せば良いのかも分かんなくなって、……ごめん」


ぎゅう。わたしの手を握るその力が強くなる。ブンちゃんの話に嘘偽りのないことが分かると同時に、わたしの思考はまともに働かなくなっていた。ブンちゃんがわたしに抱いていたのは、恋愛感情、だ。根拠なんてないけど、確信できた。そしてすとん、とわたしが知らなかったことに納得が出来たのもまた事実だった。だって、告白されてなかったのだから知らないのも当たり前だ。なんてのはこの際どうてもいいような気がした。


「実加」

「な、なに」

「今度はちゃんと守るから」

「え」

「明日からまた話し掛けて良い?」


懇願するようなブンちゃんの眼差しに、わたしは小さく頷いた。するとブンちゃんは今まで見たことないくらい優しい笑みを浮かべて、わたしの頭を撫でた。


「サンキュ」

「、」

「じゃ、また明日な」

「え、あ、うん、また、明日」

「気をつけて帰れよ」


ブンちゃんはどこか照れくさそうに笑って、ひらひらと手を振って、部活に戻っていった。


「……ばかブンちゃん」


一方のわたしは、高鳴る胸をおさえながら少しの間そこち立ち尽くしていた。







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