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「…実加」

「まーくん」


向かったのは他でもなくテニスコート。ブンちゃんと話をしなければ気がすまないくらい、わたしの感情はたかぶっていた。そしてその途中でまーくんと遭遇。驚きを見せたまーくんはわたしが自ら来るとは思っていなかったのだろう。わたしだってつい先ほどまでブンちゃんに頼まれてもいないのに、ましてや自分の意思でテニスコートを訪れることになろうとは思わなかったくらいだから当たり前といえば当たり前だった。


「ブンちゃんは」

「……」


言いにくい、そんな表情を見せたまーくん。そこで察しがついた。


「どこにいるの」

「……」

「まーくん」

「……はあ」


仕方ない。そう言いたげにため息をついたまーくんはあっちじゃ、と体育館裏の方を指差した。ああ、なるほど。と察したと同時に湧いてくるのは呆れ。


「ありがと」

「今行くんか」

「告白されてることくらい分かってるよ」

「それでも行くんか」

「なに、行っちゃだめなの?」


いや、普通行かないことくらいわたしだって分かってるけど。なんかもうそれどころじゃなかった。他人なんてどうでもよかった。こんなこと言ったらあれだけど、ブンちゃんはそんな女遊びするひとじゃないんだ、そのブンちゃんが好きだって女の子からの告白以外をそんなほいほいと喜んで受けるわけがない。それに。


「じゃけど実加、」

「傷心中だかなんだか知らないけど部活の邪魔されてまで呼び出しに応じるなんてブンちゃんばかじゃないの」

「……」

「今までそんなことなかったし。フラれたからって自暴自棄にでもなったかばかブンちゃんめ」

「ほぉ」

「なに?」

「お前さん告白されたんか」

「はぁ?」


まーくんの突拍子もない質問に自分でも顔が引きつるのが分かった。どういう話の流れでそんな質問をされなくちゃいけないんだ。生憎告白されたことなんて1度もない。彼氏いない歴は言わずもがな。そもそも恋愛感情すら理解できてないけど。


「告白されたことなんてないよ」

「……ほーか」

「そんなびっくりすること?」

「いや」

「……?」

「ほれ、ブンちゃんのとこ行くんじゃろ」


早くせんと戻ってくるぜよ、とまーくんはケロッとした顔で体育館裏を再び見やった。わたしはまーくんの質問とその反応に首をかしげながらも言われた通りの方へ向かったのだった。


「…噂が歩きに歩いてる、っちゅーとこかの」


一人で納得するまーくんの呟きなど、聞こえるはずもなく。







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