アスチルベ | ナノ


翌日。昨日の目的は白石くんに挨拶をすることだったので2人に部活が始まる時間を教えてもらい、また来ることだけを伝えて昨日は帰った(荷物の片付け終わってなかったし)。ついでにお母さんにテニス部のマネージャーをやると言ったら、絢香はそういうサポートする方が良いかもねと了承してくれた。そんなこんなで今私は四天宝寺に向かっている…。はずなんだけど、何しろまだ此方に来て5日も経ってない。しかも四天宝寺には昨日行ったばかり。そんな私が地図も何も無しに学校へたどり着けるだろうか、いやたどり着けるわけがない。ということで迷子になりました。


「…うーん」


何処から来たのかも全く分からなくなってしまった。とりあえず方向は合っているはずなんだけどなぁ。と立ち止まって首を傾げていると声を掛けられた。


「、」

「どないしてん、こんなとこで」


声の主は謙也くん。テニスバッグを背負って怪訝な顔をして尋ねてくる。私は正直に迷子になったことを伝えるとこっちに来たばかりやもんな、と笑わずに聞いてくれた。


「ほな一緒に行こか」

「う、うん」


こっちやで、と謙也くんは指を差す。あれ、昨日みたいなぎこちなさがない。女の子が苦手なわけではなさそうだから人見知りなのかな、と思ったけどそうでもなさそう。なんだか不思議。


「…そういえば絢香ちゃんの家、この近くなん?」

「うん、まだ名前は覚えてないんだけどね、病院の何件か隣なの」

「え」

「?」


もしかして家が近いのかな?そんな風に呑気に考えていると、


「その病院、俺ん家やねん」

「え!?」

「そういえば最近引っ越しのトラック見たけど、絢香ちゃんやってんな」


もっと違う人かと思っとったわ!と謙也くんは笑う。私だってまさか謙也くんの家が病院なんて思わなかった。でも良かった、家が近い人とお友達になれて。


「っちゅうか家出るん早ない?俺より先に此処居ったやん」

「時間あったら学校見学みたいなのしてようかな…って」

「にしても早いやろ、まだ30分以上あるで?」

「そ、そういう謙也くんだって早いよ」

「ああ、俺は走ってんねん」


こんな時間から?と思ったけどどうやら謙也くんは浪速のスピードスターというあだ名?異名?があってとても足が速くて脚力があるらしい。走っているのも脚力が衰えないようにとのこと。それをすごいと言ったら白石くんの方が毎日始まる前も終わった後も自主トレをしていてすごいと言われた。確かに白石くんもすごいけど、謙也くんだって量は違えど練習をしているんだからすごいことに変わりはない。そう伝えると謙也くんは頬を紅くして人差し指でかいた。


「でもそんなに足が速かったら走る競技は謙也くんの圧倒的勝利だね!」

「おう!誰も追いつけへんっちゅー話や!」

「あ、でもテニスでも球にすぐ追いつけるね!」


おん、と笑って返事する謙也くん。そんな謙也くんを見て、ふと思った。


「どないしたん?」

「ご、ごめんね謙也くん!」

「へ?」

「私歩くの遅いでしょ!気付かなくてごめんね…!」

「え、あ、や、」


単純な考えかもしれないけど、足が速いなら私みたいにのろのろ歩いてたらなんでこんな遅いんだって思う気がして一緒に行ってくれてるのになんだか無理に歩幅とかペースを合わせてもらってるんじゃないかと申し訳なくなっちゃって謝る。


「ぜ、全然気にしてへんから!」

「、」

「寧ろ俺のが足早になってへん?」

「そ、そんなことないよ!」

「なら良かった、」


まだ時間ぎょうさんあるからゆっくり行きたいねん、そう笑う謙也くんはとても優しい人のようだった。








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