*番外編 あああ、どうしようどうしようどうしよう。さっきから私の頭の中はぐるぐるぐるぐる混乱している。何故ならいま私の肩には謙也くんの頭が乗っているから。声をかけても返事が無いあたり寝てしまっているのだろう。生活リズムにやや難があるとはいえやはり私の何倍も疲れは溜まっているのだと思う。だって私はマネージャーであって、合宿中の今いつもよりお仕事は多いながらもやる事の範囲が限られているからいいけど謙也くんたちはプレイヤーゆえにいつも動いてその時その時で打ち返す方向や打ち方を考えて試合してるんだから頭も身体もたくさん使ってるはず。それに合宿中は規則正しい生活をということで朝はもちろん、夜も早くて。とは言えやはり友達や後輩と一緒となると修学旅行に近い気分になるらしく消灯時間よりも遅く寝ちゃうのだという。それだから眠さは増すばかりだそうで。と話を聞いているとこうなるのもある意味仕方ないんだけど、さすがにこんなに近い距離は初めてで心臓はさっきからばくばくうるさい。うーん…、このままだと私はみんなより早く死んでしまうかもしれない。そんなことを思っても起こすのを躊躇ってしまう。 「…こんなに幸せそうに寝るんだもん」 そっと顔を覗いてみればきっと幸せな夢でも見ているんだと思う穏やかな表情。そんな幸せを止めることになると思うと罪悪感が邪魔をして出来ない。だからといっていつまでも休憩出来ないし…。 「謙也ー、そろそろ試合の…って寝とるんかい」 「し、白石くん…」 「絢香ちゃんも休憩やったん?」 「う、うん、お昼まで時間あるから」 白石くんは美味しいご飯楽しみにしてんで、とその包帯が巻かれた手で私の頭を撫でてくれた。白石くんは私の頭を時たま撫でる。前に聞いたら頑張り屋さんやからご褒美の代わりや、ってちょっと子供扱いされたように感じたけど白石くんなりの褒め方と思うと心地いい。 「で、謙也はどないしてんこれ」 「えっと、私が此処でのんびりしてたら謙也くんが俺もまだ時間あるからって、その、お話してたんだけど…」 「気付いたら寝とったんか」 「うん、でも幸せそうに寝るからなかなか起こせなくて」 そう私が言うと白石くんは朝早いのに遅くまで起きてるからこんなことになるんだと悪態づいた。けれどきっと白石くんもそれが楽しいのだろう、本気で怒っている様子ではなかった。仲が良いんだなあ。 「けどこのままはあかんからな、」 「え、白石く、」 「謙也ー!次試合やでー!」 「いだだだだたっ!!!」 白石くんはとても恐い笑顔で頬をつねったまま謙也くんの耳元で叫んだ。謙也くんは悲鳴を上げながら起きた。私は2人の声が予想以上に大きくて思わずびっくりしてしまった。それを見た白石くんは一言謝り、そして謙也くんが起きたのを確認するとぱっと手を離して何事もなかったかのように起きた?と謙也くんに聞く。 「な、なんちゅー起こし方すんねん!!」 「んなことはどうでもえぇから次試合やって」 「お、おう…」 「あと絢香ちゃんに言うことあるやろ、ずっと肩借りとったんやから」 「え?!あ、かかか堪忍な?!」 「あ、だ、大丈夫だよ…!」 「ほな行くで、今の財前なんや苛ついとるから待たせない方がええでー」 白石くんは絢香ちゃんもベンチで見とるとええよ、と言って来た道を戻っていく。謙也くんはほんまに堪忍な!ともう一度私にに謝って白石くんを追うように立ち上がると相変わらずの速さで行ってしまった。途中、白石くんになにか言われたらしい謙也くんが頬を赤らめて言い返していて、でも楽しそうで少し羨ましかった。 「…私も謙也くんとあれくらい仲良くなれたらなあ」 ぽつりと呟いて、私もふたりの後を追うように同じ道を辿った。 「ずいぶん幸せそうやったなあ?」 「っ!」 「へたれのくせに案外大胆なんやな」 「へ、へたれは余計や!」 「早く告白すればええのに」 「なっ、ななな、」 「告白する前に他のやつにとられても知らんでー?」 「ううううっさいわ!」 前 次 |