アスチルベ | ナノ


「………」


私も、と言えば簡単にすんでしまう話なのに、緊張して、私はただただ自分の顔が赤くなるのを感じるだけで、言葉を紡げなかった。


「最初に絢香と話したときから、ずっと好きやってん」

「、」

「…とか言うて、ほんまは言うつもりなかったんやけどな」


不意に、謙也くんが悲しそうに笑った。胸がずきん、と痛む。


「せやかて、絢香にしてみれば迷惑な話やろ?」

「…え、?」

「やから、絶対言わんって決めてたんやけどな」


ああ、なにをしているんだろう私は。緊張している場合でも、胸を痛めている場合でもない。謙也くんをこんな風に笑わせてるのは、私じゃないか。そう思うと、自然と身体が動いた。


「えっ、絢香!?」


ぎゅっ、と謙也くんに抱きつけば謙也くんがびくりと身体を震わせた。謙也くんの優しい匂いがふわりと鼻を掠める。


「ちょっ、な、なにして、」

「…き」

「へ?」

「…すき、です」

「っ」


からからな喉から掠れた声で言葉を紡ぐ。謙也くんがまた、だけど今度は小さく、身体を震わせた。


「こういうの初めてだし、気づいたのはさっきだけど、」

「……、」

「で、でも、その前から、謙也くんのこと、特別に思ってたのは確かだから、」

「絢香…」


ぱっ、と謙也くんから離れて彼を見る。呆気にとられたように、少しだけ間抜けな顔をしていた。思わず出そうになった笑いを押し殺して、謙也くんがさっき私に言ってくれたように、私は謙也くんに返事をする。


「私も、謙也くんのことが、好きです」


謙也くんはおおきに、と私が一番好きな笑顔で言った。明日は白石くんにまず報告して、それから財前くんやユウジくん、小春ちゃんにもちゃんと言おう。






「…なあ、絢香」

「うん?」


家までの短い道のりを謙也くんの隣を歩きながらたどる。いつもと変わらない位置のはずなのに、肩書きが変わったから、少し照れ臭かった。


「無理に、とは言わんけどな?」

「うん」

「…その、名前、」

「?」

「呼び捨てで呼んでくれん?」


そして思わぬ提案に私の顔が火照る。


「俺が呼び捨てで呼んどんのにくん付けで呼ばれとるって、なんか、…」

「………」

「いや、無理にとは言わへんけど、その、」

「……けんや、」

「っ!」

「…ですか」

「え、あ、はい!あああありがとうございます!」

「……ぷ」

「な、なんやねん!」

「なんで敬語なの?」

「べべべべ別にええやろ!絢香やって微妙に敬語やったやんか!」

「あははっ」


声をあげて笑う私に、謙也く……じゃなかった、謙也は、顔を真っ赤にして慌てるのだった。








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