緊張した面持ちで、インターホンに手を伸ばす。それは他のだれでもない、謙也くんだった。 「謙也くんっ……」 「っ!」 騒々しく足音をたてながら、息を切らしながら、その名前を呼べば大袈裟なくらいに肩を震わせて私の方を見た。 「って、え、絢香なんで、?」 「よかった、間に合って」 「…、」 困惑した表情の謙也くん。それもそうだろう、家の中に居ると思っていた相手が学校のほうから走ってきたのだから。でも私の間に合って、という言葉を聞くやいなや、気まずそうに視線をそらした。どうやら白石くんたちと遭遇したと、想像がついたらしい。 「わざわざ、走ってきてくれたんやな、」 「……うん」 「………」 「………」 私から話を切り出すには、少し気まずいような気がする。そうして口をつぐんでしまえば、謙也くんもまた、口をつぐんでしまって、私たちの間に沈黙が流れてしまった。遠くでカラスが鳴く。大してひとも通らないところなものだから、どこかの家のテレビから流れる音が、やけに鮮明に聞こえた。 「…絢香」 それから少しの時間が経って、謙也くんが私の名前を呼んだ。俯き気味だった顔をあげれば、謙也くんが私に視線を戻していた。 「ここだとあれやから、公園、行かん?」 へらっ、と眉尻をさげつつ柔らかく笑う謙也くんに、私も少しだけ笑みを浮かべて、頷いた。 「…堪忍な」 「、」 特に会話もないまま公園につくと、謙也くんが不意に謝った。 「まさか絢香に聞かれとるとは思わんくて」 「ううん、私の方こそ、ごめんね」 「ええねん、気にせんとって」 人気のない公園で、謙也くんは眉尻を下げたまま笑って話した。 「…けど、大事なことやし、ちゃんと言いたいねん」 「…謙也くん?」 「せやから言わせてな、」 そう言って私に目を向けた謙也くんの顔は、いつになく真面目で、だけど少しだけ頬が赤く染まってて、 「俺、絢香のことが好きや」 |