謙也くんのことが、好きなんだ。そう思うといろいろなことが納得できた。謙也くんがこの間一氏くんに違う女の子に告白されていたことをからかわれているのを見た時のあのちくちくした痛みも、謙也くんに呼び捨てで呼ばれたいと思ったのがなぜかも、謙也くんが慰めてくれたときにやたらと心が暖まった理由も、謙也くんに好きなひとが居ると知った時の胸の痛みも、ぜんぶ、 「…全部謙也くんのことが好きだったからなんだ」 走りながら私はそんなことを考えた。 「え、絢香ちゃん」 「っ白石くん、財前くん」 「帰ったとちゃうんですか」 「え?えっと、小春ちゃんたちと話してて、」 そして玄関で出くわしたのは白石くんと財前くんだった。ふたりとも私がとっくに帰ったと思っていたらしく、目を丸くしている。 「ふたりこそ、帰ったんじゃ、」 「俺らは今からや、」 「あの、謙也くん、は」 なんだろう、謙也くんへの好きが恋情から来るものだと分かっただけなのにすごくその名前を口にするのが恥ずかしい。恐るべし恋心…。そんな心情を知るわけもないふたりは不思議そうな表情を浮かべつつもすぐに答えてくれる。 「先帰りましたけど」 「えっ!」 思わず声をあげて驚く私を見てふたりはまた驚いて、それから顔を見合わせて、白石くんが少しだけ言いにくそうに告げた。 「絢香ちゃんの鞄があったの、知ってたらしくてな、さっきのこと話してん」 「でついさっき走っていきましたわ」 「えっ」 「俺らも帰ったと思ったさかい、家に居るんちゃう?って言うてしもて」 「せやから多分先輩の家に行ったと思いますわ、」 「…うそ」 「まあ、早く行ってもあいつへたれやからインターホン押すまでにまだタイムラグあるで」 それはつまり、今から急いで帰れば謙也くんを誤解させずに済む、っていうことなのかな。そう考えた私は急いで靴を履き替える。その様子を見て白石くんが声をかけてくれた。 「大丈夫やで、」 「っ、」 「絢香ちゃんなら、大丈夫や」 「白石くん…」 そして頭を優しく撫でてくれる。まるで、私のこの謙也くんを好きな気持ちも謙也くんを変に誤解させて傷つけたくない気持ちも、全部分かっていると言わんばかりの表情だった。隣に居る財前くんも、表情こそ変わらないものの、雰囲気が柔らかく感じるからきっと白石くんと同じなのだろう。ふたりには、お見通しみたいだ。きっと私がつい先程まで気づかなかったこの気持ちに、なんとなくでも気づいていたような、そんな気がした。 「せやから、頑張りや」 とん、と白石くんに背中を優しく押される。見ればふたりとも行け、と言葉にはしないものの小さく頷いた。そんなふたりに私は御礼を言って、駆け出した。 「小春たち、上手いことしてくれたやん」 「そっすね」 「せやけど居づらくなるなあ」 「なにがっすか」 「いつも3人で一緒に居たさかい、あの2人がくっつくと俺だけ場違いみたいやない?」 「別に部長があの2人と一緒に居たいならええんとちゃいます?」 「それもそか、…なんや財前に励まされるとはなあ」 「なんすか、」 「…なんでもあらへんよ」 |