アスチルベ | ナノ


「俺が部長の白石蔵ノ介や」

「柏木絢香です、」

「そない畏まらへんでえぇよ絢香ちゃん」

「あ、えっと、」

「前の学校では部活やっとった?」


首を横に振ると白石くんはそっか、と微笑んだ。中学3年の春、親の転勤で大阪に引っ越してきた私は四天宝寺中に転入した。春休み中、担任になるらしい渡邊先生にテニス部のマネージャーやってみぃひん?と誘われテニス部を見学してみたもののとにかくすごい人ばかりで圧倒された。けどみんな楽しそうで渡邊先生も顧問だというし結果的に私は先生の誘いを受けた。そして現在、入るんやったら休み中からのが早よ馴染めるやろという先生の言葉を受けてテニス部の部長、白石くんに挨拶をしに来ている。


「にしてもオサムちゃん、またえらいかわえぇ子勧誘したなぁ」

「え」

「自分、前の学校でモテとったんちゃう?」

「そんなこと、ないよっ…」


ははっ、と私の頭を利き腕らしい左手で撫でながら笑う白石くんこそモテてるだろうに…。白石くんは照れ屋さんやなぁ、とにこにこしながら言った。あれ、今すごいからかわれてる気が…。


「白石ー、」

「なんや」

「………、」

「は、初めまして」


白石くんの後ろから金髪の人が走ってきたと思ったらばち、と目が合った。金髪の人は私が初めましてというと初めまして、と頬を少し紅くしながら返してくれた。


「絢香ちゃん、転入生でマネージャーになる子や」

「柏木絢香です、えっと、」

「あ、お、忍足謙也、です」

「忍足、くん…」


少し吃り気味に返事をする忍足くん。白石くんはあ、と思いついたかのように声を出した。


「忍足やのうて謙也って呼んでやってや」

「え?」

「こいつ従兄弟居るさかいややこしなってまうから、」


な?と白石くんは変わらずにこにこしたまま言った。確かに従兄弟さんのことを話すときややこしいしわけが分からなくなってしまいそうだ。


「でも、」

「謙也もその方がええやろ?」

「え、あ、お、おん」

「やって」

「そしたら、謙也くん、って呼ぶね」

「したら俺は、なんて呼べばええ、かな」

「えっと、白石くんみたいに呼んで、構わないよ」


謙也くんに笑いかけると謙也くんは絢香、ちゃん…?と疑問系ではあるけれど白石くんみたいにちゃん付けで呼んだ。白石くんはそんな謙也くんを見て笑っていた。


「謙也がちゃん付けって新鮮味あるなぁ」

「う、うっさいわ」

「それなら、無理しないで呼び捨てとかでも、」

「よび…!」

「ぷっ」

「し、白石!」


それこそ謙也にはハードル高いわ、と小さく笑う白石くんと、いらんこと言うな!と恥ずかしそうに言う謙也くん。もしかして、謙也くんってあまり女の子と話さない、のかな…?さっきからなんかぎこちないというかたどたどしいというかそわそわしてるし…。うーん、迷惑に思われてたらどうしよう。


「と、とにかく!」

「、」

「あと1年もないけど、よろしゅう」

「…うん!」


謙也くんはそう言ってニカッと笑った。どうやら女の子が苦手とかではないみたいで、安心した。









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