アスチルベ | ナノ


「あー!」

「ど、どうしたの謙也くん」

「弁当…」

「え?」


1時間目が終わった後の休み時間。隣の席の謙也くんが大きな声を上げたと思ったらすぐに机に伏してしまった。どうやらお弁当を忘れてきてしまったらしい。じゃあお昼前に食べてるおにぎりも忘れたのかな。謙也くんは学校行事として行われているという大食い大会で優勝してしまうほどよく食べるみたいで、朝練が終わった後もよくおにぎりを食べているのだ。


「あかんどないしよ…」


がっくりと肩を落とす謙也くん。そういえば朝練が始まる前、今日財布忘れたみたいなこと言ってたような…。念のためそれを確認するとうんと頷いてほんま今日ついてない日や、と呟いた。


「謙也くん」

「ん?」

「私のお弁当あげる」

「え…、い、いやいやいや!何言うてんねん!」

「だって、」

「そんなんしたら絢香の昼飯無くなるやろ!」

「でも私がお弁当食べないのと、謙也くんがおにぎりもお弁当も食べないのと考えたらどう考えても謙也くんの方が辛いよ!」

「せやかてさすがに絢香の昼飯取ってまで自分の腹満たすなんや出来ひん!っちゅうかそない酷いことしたない!」


そんなに力強く否定されると返す言葉に詰まってしまう。でも本当に私のことなんか気にしなくていいのに…。としょんぼりしていると話を聞いていたらしい白石くんが翔太くんは?と謙也くんにたずねる。謙也くんは翔太がおった!とまるで救世主が来たかのようなそんな表情で言う。そんな謙也くんを余所に白石くんはクエスチョンマークを浮かべる私に、翔太くんが謙也くんの弟だと教えてくれた。なるほど。





それから時間が経ってお昼休み。謙也くんは財前くんに用事がある白石くんと一緒にいってしまった。私は私でこの間の練習試合の記録に記入漏れがあったのでそれを直して2人を待つ。お弁当あるといいなぁとぼんやり思っていると廊下から男の子があの、と声を掛けてきた。上履きの色が違うから、違う学年。男の子に一番近い席の私が返事をすると忍足謙也は居ますかと聞かれた。ふと手元を見ると見覚えのあるお弁当。もしかしてと思って名前を聞くと忍足翔太です、と返ってきて逆に翔太くんが私に絢香先輩ですかと聞いてきたので頷く。


「あ、えっと…、謙也くんならさっき翔太くんに会いに行ったよ?」

「へ?」

「たぶん、すれ違っちゃったんだと思うよ」


そう言うとあちゃーというような表情を見せた。きっと今頃謙也くんも謙也くんで似たような表情を浮かべていそう。すると翔太くんは謙也くんの席に座って謙也くんが帰ってくるまで話し相手になってもらえないかと私にたずねてくる。私はやることが終わったから、良いよと頷いた。そうして返ってきた笑みはやっぱり謙也くんと似ていた。








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