「ありがとうございました!」 部員全員の声がテニスコートに響いて、今日の練習試合は幕を閉じた。あのあとも謙也くんは少し苛ついていたみたいだけど、部長さんと(ダブルスだけど)闘って勝った後はいつもの謙也くんに戻っていた。私のこともいつもと変わらず絢香ちゃんって呼んで、だけど私はそれを心のどこかで寂しいと感じていた。 「絢香ちゃんお疲れさん」 「みんなこそお疲れさま!」 「他校との練習試合は今日が初めてやったやろ?どうやった?」 「やっぱりいつもと気迫が違った!あとね、みんな真剣でかっこよかったよ!」 大会も頑張ってね、と言えばみんなは勿論と元気よく笑ってくれた。その後は白石くんからみんなを見ていて気になったことを話したり渡邊先生も激励の言葉を掛けたり、少しだけミーティングをして解散した。 「謙也くん」 「ん?」 途中でみんなと別れてから、いつものように謙也くんと帰る。私はどうしても気に掛かっていたことを聞いてみた。 「今日、休憩終わりに呼びに来てくれたでしょ?」 「おん」 「その時、なんだか苛ついてるように見えたんだけど何かあったの?」 「え」 「私の勘違いだったらいいんだけど…」 謙也くんは予想外、とでも言わんばかりに一瞬目を丸くさせた。でもすぐ後にあー、と言いづらそうに目を泳がせた。あれ、私触れちゃいけないところに触れちゃった、かな…? 「も、もしかして聞かないほうがいいことだった?」 「えーっと、その方が良かったけど、なんや嬉しい気もするし、」 「…なんだか複雑」 謙也くんはまぁな、と笑った。 「けど絢香ちゃんが気にする必要はないで」 「……うん」 「え、なんや急にテンション低くなってへん?」 「………」 「ちょ、俺なんか気に障ることしてしもた?!」 「…名前」 「へ?」 「さっき呼び捨てにだったのになぁーって」 「さっき?」 「あっ、お、覚えてないならいいの!気にしないで!」 私なに言ってるんだろ、と恥ずかしがる必要なんて大してないはずなのになんだか恥ずかしくなってしまった。謙也くんは頭に疑問符を浮かべていたけれどすぐにああ!と思い出したように呟いた。 「呼びに行ったときな」 「う、うん」 「あれは、その、つい呼び捨てにしてもうただけで、」 「…謙也くんは呼び捨ての方がいい?」 呼び捨ての方が良いなら私もそうしてもらった方がなんだか良い。そう思ったのに謙也くんはあー、とかうー、とか言う。 「謙也くん?」 「いや、呼び捨てのが確かにええ、けど、」 「なら呼び捨てでいいよ」 「なら、呼び捨てで……って、え?」 「謙也くんが呼びたいなら呼び捨てでいいよ?」 そう言うと謙也くんはえぇ?!と驚いた。あれ、なんで?呼び捨てのほうがいいんじゃないのかな? 「え、え、ほんまに?」 「うん」 「せやけど、」 絢香ちゃんはええの?と聞いてくる謙也くん。別に私は呼び捨てされても構わないし、なんか、なんとなく、 「謙也くんには、呼び捨てで呼ばれたいなぁ、って」 「………、」 ちょっと恥ずかしくて謙也くんから目を反らす。謙也くんはそのまま黙ってしまった。 「…絢香」 「!」 「な、なんか恥ずかしい、んやけど…」 でもすぐに私のことを呼び捨てで呼んでくれた。顔を上げると照れくさそうな顔をする謙也くんが居て私も少し照れちゃったけど、でも前より仲良くなれた気がして嬉しくなった。 |