アスチルベ | ナノ


「…え、今日練習試合?」

「おん」

「え、ええと、」


どうしよう、いつ話してたっけ練習試合のこと。頭がぐるぐる回る。いつもと同じ、部活が始まる30分前に来たら白石くんに今日は練習試合だと言われた。だけど私の記憶を辿っても練習試合のれの字すら出て来なくて、どうやら私は完全に練習試合のことを忘れているようだった。


「もしかして謙也からメールきてへん?」

「え?」


咄嗟に携帯を出してメールを確認する。謙也くんとはアドレスを交換しているけどあまりメールはしてなくて昨日も勿論きていなかった。白石くんにそう伝えれば、ため息が返ってきた。どうやら昨日の放課後に渡邊先生に言われたみたいだけど昨日は部活が休みだったからメールでみんなに連絡したみたいだった。…よかった、私が度忘れしたみたいじゃないらしい。ほっ、と息をつく。


「やっぱり謙也に頼んだん間違いやったやろか…」

「え?」

「ああ、こっちの話や」

「?うん」

「練習試合、言うてもあまり特別なことはしなくてええからいつも通りに絢香ちゃんは絢香ちゃんの仕事しとってや」

「え、でも」

「なんかあったら俺が指示出すさかい」


白石くんはにこりと笑って私の頭をぽんぽんと撫でた。返す言葉が無くてされるがままにしていると謙也くんが来て、謙也くんを見た白石くんの笑顔が一気に黒くなった気がする。


「お、おはようさん、」

「おはよう、謙也くん」

「おはようさん?」

「……っ!」


どうやら白石くんの黒いなにかは、謙也くんに向けられているらしい。それを感じた謙也くんが若干怯えている。と、謙也くんは白石くんに部室の外に連れ出されてしまった。


「お前ほんまヘタレやな…!」

「ぎゃあああすまんすまんほんま堪忍!」

「せっかくのチャンス無駄にしよって阿呆!」


なんだかよく分からないけどそんな会話をしている謙也くんと白石くんがすごく面白くて、私はふたりに聞こえないように小さく笑うのだった。








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