どうしよう、財前くん、私気をつけたはずなんだけど甘かったみたい。 グイッ 「ちょっと聞いてんの?!」 「え、あ、ご、ごめんなさい…?」 香水の匂いかな、とてもキツくて気持ち悪い。私は今たくさんの女の子たちに囲まれていてその中でも香水がキツくて化粧もちょっと濃いめのギャルって感じの女の子に胸ぐらを掴まれている。放課後、提出し忘れていた数学の課題を出しに行き、いつも通り部活に出ようと部室へ向かっていたらこの女の子たちにちょっと良い?と有無を言わさず体育館の裏、人が全然居ないところに連れていかれた。そして連れてこられるなりどんと押されて私の後ろは壁。目の前には女の子たちが居て私はさっきからブスだのなんだの悪口ばかり言われている。 「男子テニス部はあんたのものじゃないのよ!」 と言われて色目を使うなだの言われる。その辺で私も我慢し切れなくなった。 「あの、」 「何?口答えする気?」 「私が男子テニス部に入ったのは渡邊先生が勧誘してくれたからで別に白石くんたち目当てで入ったわけじゃないの」 「はぁ!?」 「大体私はみんなのこと大切な仲間としか思ってないから恋愛感情は一切抱いてません」 リーダー格みたいな女の子が何かを言おうとしたけど私はそれさえも遮って続けた。 「そもそも白石くんたちは私の物でもなければ貴方たちの物でもないしそれ以前に白石くんたちは人間であって自分の意志がちゃんとあるんだから貴方たちが仲良くする人を決め付けてこんなことするのはおかしいと思う」 「黙って聞いてれば…っ!」 きっと睨み付けて言い切ると同時にリーダー格の女の子が私に向かって手を挙げる。叩かれる…!と目をぎゅって瞑って歯を食い縛ってもなかなか衝撃はこない。どうしてかと思って目を恐る恐る開けると女の子の手を掴んでいた。謙也くんが。 「お、忍足くん、」 女の子が怯えた表情を浮かべる。それもそうだ。だってこんな怖い顔した謙也くん、見たことない。 「自分ら、何してん」 謙也くんがいつになく低いトーンで話す。私に言ったわけじゃないのに、体が震えた。謙也くん、が、こわい。 「俺らのこと好いてくれてるのは嬉しいけどこないなことして誰が喜ぶと思っとんねん」 「………、」 「この子はマネージャーとして仕事してんねん、せやのになんでそれをお前らが咎めるん?ただ仕事を懸命にやっとるだけやろが」 「ご、ごめんなさ…、」 「今回は見逃したるけど、次になんの罪もない子にこないなことしたら女の子でも容赦せぇへんからな」 「………!」 謙也くんはそう言うとぱっと手を離して分かったら早よ失せてや、と吐き捨てた。女の子たちは謙也くんから逃げるように去っていく。私は思わず座り込んでしまった。 「絢香ちゃん?!」 「け、けんや、くん…」 「え、ど、どっか痛いん?!」 「…え、あ……」 振り向いて私を見る謙也くんはいつもの謙也くんだった。それを見て安心した私は、謙也くんの言葉で自分が泣いてることに気付く。 「…堪忍な、怖い思いさせて」 「………っ」 しゃがんだ謙也くんがいつになく優しい顔で私の頭を撫でるから私の涙は止まるどころか溢れるばかりだった。 |