「白石」 それは不定期にやってくる。 「なん」 時間も定まってない。 「くれ」 ただその衝動が来たときには、俺はただ従うのみ。 「どうぞ」 「ん」 髪を避けて、服を少しはだけさせては彼女ち合わせるように屈んでみせた。そしてぶつ、と聞こえる音と鈍い痛み。そして程なくして俺の血は彼女の喉を潤す。そう、彼女に血を与えている。毎日ではないし、定期的にでもない。不定期にやってくる吸血衝動。本能であるそれを抗えない、抗って打ち勝つ術を知らない彼女に俺はこうして血を差し出す。最初はやはり抵抗があった。 「わたしに血を吸われたからといってきみに被害はない」 「、」 「言わば献血のようなものだ」 「え」 「ただその血をわたしが飲むだけ」 「だけ、って…」 「貧血が起きるかもしれないが、吸血鬼になったりだとかそういう被害はきみにはない」 当初、血を吸われたら自分の身はどうなるのかと案じていた俺を見抜いていたかのように彼女はそう言ってのけた。それなら、と最初に血を吸わせて以来、彼女は吸血衝動が来るとすぐに俺に声をかける。放っておいたらどうなるのか分からないのだと言うし、それで彼女に異状が現れるよりは断然ましだと割り切っては従っている。いや、元々雇われた身である俺に拒否権などないに等しいが。 「…、ごちそうさま」 「ん」 「いつも思うのだけれど」 「ん?」 「白石の血は、美味しいな」 「………」 「血まで恵まれてるとは、本当にきみは天に好かれているようだ」 そう言って歯が穿たれた痕があるそこを一舐めして、俺から離れた。血が美味い、と言われても。それが顔に出ていたらしい、彼女はきみたちは血の味を褒められても嬉しいわけがないな、とからから笑った。 「まあ、不味いっちゅーよりはええけど」 「不味かったら他の獲物を探すよ」 「…獲物、て」 「ついでに渡邉の血は不味くはないがわたし好みじゃない」 「……吸ったんかい」 「一度だけな。煙草を吸うからか苦味があった」 「………」 「まあ奴はわたしたちを知っているし、そもそも程なくしてきみと出会ったからそれっきりだ」 渡邉、とは俺にこの仕事の話を持ち掛けてきた学生時代の恩師(…でええんやろうか)や。そういえば最近元気なんやろうか。まあええけど。渡邉……基オサムちゃんは彼女の両親と知り合いらしく、彼女の両親が亡くなってからは表向きは後見人ということで必要があれば協力してもらっている。 「そう言えば渡邉は財前とも知り合いらしい」 「ほーん」 「人間なのに吸血鬼の知り合いがそこそこに居るみたいだ」 「オサムちゃんと会ったん?」 「いや、この間財前と話したときに聞いたのだ」 「へぇ」 「まあ渡邉は元気らしい」 そう簡単に会えそうにはないが。と苦笑いを乗せて彼女は呟いた。まあ、そうだろう。オサムちゃんもオサムちゃんで仕事があるのだ。それに元気だとわかれば、今はそれで満足だ。 「………」 「お嬢様?」 「……それじゃ、わたしは寝るよ」 「ん?ああ、おやすみ」 「おやすみ」 そして彼女が一瞬翳りを見せたことに疑問を持ったがどうやら話す気はないらしい。そんなに大したことではなかったのだろうと考え、俺もまた自室に戻った。 白濁した服従 |