そして一夜明けた今日。 「…ふむ」 「交通機関を使う言うたの、俺やないからな」 「たまには人混みにまみれないとと思ったのだけれど、予想以上の人混みだったな」 「時間も時間やしな」 昨日彼女がラジオで聞いた通り、雨となった今日は彼女の隣で俺も(彼女の要望ではあるが)私服で電車に揺られている。本来なら車で移動するのだろうがこのお嬢様は色々変わってるため本人が言うように言葉を交わすことはなくとも多くの人と同じ空間に居ないと後々辛くなるだろうから、ということでこうして交通機関を使用している。天気がよければまだ幾分か人は少ないだろうが今日は雨だ。それにこの時間はまだ通学時間から少しズレているとは言えど通勤時間には引っ掛かる。というかこんな時間に言っても彼女のお目当ての店は開いていないはずなのだがどうして彼女は朝食もとらず家を出ると言ったのだろうか。 「おはようさん、…早いんやな」 「お、ちゃんと私服だ」 「お嬢様が言うたんやろ」 「よし、なら早速行こう」 「は?」 「これから朝食を作るところだったんじゃないのか?」 「それはそうやけど」 「なら良いんだ、ほら早く」 「ちょ、」 と言うのが今朝のやり取り。そのまま俺は鍵と財布とを持ってそのまま電車に揺られている。彼女はもう少し人が少ないと思っていたようだ、うんざりしたような表情で俺の前に座っている。 「次で降りるんやろ、もう少しの辛抱やって」 「…やはり車で来るべきだった」 「俺の言葉に耳を貸さんかったのは誰や」 「まあ、それはそうなのだけど」 「ほら、降りるで」 はぐれないようにと手を握り、人の波に押されながらも駅に降りる。一先ず人の流れが落ち着くまで、壁の方に彼女を連れて待った。 「どうしてこんなに人が多いんだ」 「一応通勤時間やからな」 「その割に学生が居ないけれど」 「それは通学時間のことやろ」 「…通勤というのは社会人に使うのか」 「一つ学んだな」 「……言葉とは難しいな」 「通学と通勤で難しく思っとると後でうんざりするで」 「そうなのか…」 語学とは面倒臭い物だ、などとぼやいたかと思えば喫茶店とやらに行きたいと言うので手を引きながら歩き出す。そして少し歩き着いた喫茶店に入れば洒落ているな、とどこか満足そうに彼女は呟いた。 「で、お嬢様」 「ん?」 「なにがしたいん」 「朝食のことか?」 「せや」 「単に白石も食べたいものを食べれば良いと思ったんだ」 「は、?」 「現にわたしときみが頼んだものは違う」 にこり、と笑う彼女が頼んだものと俺が頼んだものは確かに違う。つまり、そういうことなのだ。いつも彼女に合わせて自分も同じものを食べるが、たまには違うメニューでも良いのだと、きっと彼女はそう言いたいのだろう。もぐもぐとトーストを頬張る彼女は更に付け加えた。 「それに、わたしは料理が出来ないがこうして出先で食べればきみが食事を用意しなくて良いじゃないか」 「、」 「詰まるところたまにはきみの負担を軽くしてやりたいと言うことだよ」 「………」 「だけどきみの方がわたしの好きな焼き加減を分かっているようだ」 「そりゃ此処より付き合い長いしなあ」 どうやら此処のトーストは彼女からしてみれば若干焼きすぎらしい。味に文句はないんだけどなあとぼやきながらも完食した彼女は外食するときはトーストはやめよう、と店を出たあとに言うのだった。 君にほんの少し圧迫される |