Gardenia | ナノ



財前視点






「………」


さっきからずっと一方向だけを見て、怒るでもなく笑うでもないこの少女は一体なにを考えているのだろうか。分からない俺はただただこの沈黙を破るべく冗談を紡ぐ。


「妬いてんのやろ」

「妬いてなどいない」

「人に酔ったんか」

「酔った」

「、お疲れさん」


ぽん、と頭に手を乗せてやれば悠良は照れ臭そうに俯いた。今日は白石サンのためだけに行動を起こしたと言ってもきっと過言じゃない。彼女は前に電話したときからずっと言っていたのだ。


「財前」

「なんや」

「白石と仲が良い同級生で金持ちなやつが誰なのか、渡邊に聞いてくれないか」

「俺が?」

「白石を驚かせたいんだ」

「聞いてどないすんねん」

「そいつが出席するパーティーに、わたしも出る」

「………」


これはまたどういった風の吹き回しなのか。俺はそのときさっぱり分からなかった。だけど聞けばあのひとが彼女の元を訪れ、ヒトのいないあの世界に戻したい様子だったことを聞いて、すぐに悠良のやろうとしていることが分かった。本当にこのお姫さまは白石サンのことが大切らしい。そうじゃなきゃ目当ての人物が居るからと言っても、わざわざ大人数のパーティーに出るわけはない。たとえこれだけの料理が並べられていようと誰かが血を少しでも滲ませてしまえば、彼女は最小限だとしても吸血鬼としての反応をせざるを得ないはずだ。それほどまでに王族である彼女は、血の匂いに敏感なはずなのだ。だから王族でヒトとの関わりを殆ど文で済ませている彼女がパーティーに出るのだとしたらなるべく少人数の、それも同胞が多く集まるパーティーが妥当なのであっていきなり大勢のヒトが居る場にポンッと出るのは厳しいものがあるはずなのだが。それでもそいつが出るなら構わないと、確かに電話の向こうの彼女はきっぱりと断言した。本当に兄夫婦も兄夫婦だが、愛の力とやらは馬鹿にできないのかもしれない。柄にもないことを思った。


「ええよ、協力したる」

「すまない」

「別に」

「…きみがいて、本当に助かる」

「今さら」

「それもそうだな」


そう言って電話越しに笑った悠良は今、隣で笑っていない。ただ悲しげな、寂しげな雰囲気を漂わせているだけだった。


「……どうしてだろうな」

「?、」

「今、白石が楽しそうにしているのを見てわたしは喜ぶべきなのに」


そして静かに一筋流れたそれは彼女の首もとのリボンに吸い込まれた。


「わたしが居ない時の白石の笑顔が、すごく痛いんだ」





そやかに







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