「初めまして、」 「………誰だ、きみは」 「今日からお嬢様に仕えさせていただきます、白石蔵ノ介です」 「…わたしは誰も雇うつもりはない、帰れ」 「そういうわけにはいきません」 「帰れ」 「そのご命令には従えません」 「……渡邊は」 「渡邊様は仕事がある、とお帰りになりました 」 「………」 「よろしくお願いいたします、お嬢様」 始まりは、そんなものだった。俺は敬語で話していたしお嬢様にはただただ冷たくあしらわれた。それでも俺が金を積まれようとなにをされようとお嬢様に仕える気でいたのが伝わったのか、次第に帰れなんて言わなくなったし俺に敬語を使うななんて言い始めた。 「白石」 そうだ。この呼ぶ声だけはずっと変わらない。なんだかんだ彼女は最初から俺のことを白石と呼んでいた。 「白石!」 彼女はこれからもずっと俺をそう呼び続けるのだろうか、なんて思った矢先。 「起きろ白石!」 と耳元で叫ばれた。 「?!」 飛び上がれば見慣れた部屋。いつのまに自室へ戻った?いや、それ以前に。 「お嬢様、?」 「やっと起きたな」 仁王立ちのお嬢様は機嫌がよくないだけで傷一つ見当たらなくて。ただ扉の隙間から見えた廊下が汚い。 「まったく、わたしに血を吸われたくらいで2日も寝るなんて」 「へ、」 「白石が起きないから家が汚くなったじゃないか」 「は、」 2日も寝るなんて?ということはあれから彼女はあの少年に勝って帰ってきて?いやいや、そんなことより何故俺がこの家にいるんだ。確かに俺はあの時彼女に解雇すると告げられたはずだ。だからこの部屋は空き部屋のはずで見覚えのある俺のものが置いてあるはずはないしそもそもここに俺はいること自体がおかしい。じゃあこれは夢なのかと思ったがそれにしては感触があまりにリアルだ。 「白石」 「は、はい」 「きみを解雇したのは危険に巻き込みたくなかったからだ」 どうやらここは夢ではなく現実らしい。彼女はあの少年に勝ち、その企てを阻止した。が俺は彼女に血を与えてから2日も寝ていたらしい。その間にそっちの世界から戻ってこないのか、とか縁談とか色々されたがそれも全て蹴って彼女はこの家に戻ったらしい。 「だからニートだったきみをわたしは再び雇った」 「ニートて…」 「つまり白石はわたしと前みたく暮らしていくんだ」 わたしが望んだ世界で。笑みを浮かべて差し出してきたその小さな手を、俺は掴んだ。どうやら彼女は新しい日常より、俺と過ごした今までの日常を選んでくれたらしい。 さよなら新世紀 |