息を、のんだ。あちこちに血溜まりが出来ていて、あちこちに吸血鬼たちが転がっている。生きているのか死んでいるのか、なんて恐ろしくて考えたくもなかった俺はただただ財前の後を追っていた。 「白石サン」 何メートルも先の岩影に隠れている財前が俺を呼ぶ。俺も静かにそちらに行き、影から財前が指す方を見た。皮肉なくらいに明るい空から指す光が、その髪を煌めかせている。小さい身体と、眩しいくらいに綺麗な金色が、彼女だと証明する。対峙するのは目が赤くて、きっと天然パーマであろう黒髪の少年。俺よりお嬢様より、多分財前と一番歳が近いように見える。 「アンタ、やるねぇ」 「はーっ、はーっ」 「でも息切れてんじゃん」 高く笑う彼も、肩で息をする彼女もお互いに怪我をしているけどやっぱりと言うべきかお嬢様の方が怪我も多いし体力の消耗も激しかった。そんな状況を見て飛び出しそうになった俺を、財前は自分が合図を出すまで待ってくれと止めた。焦る気持ちを押さえて、財前の合図を待つことにしたが彼らは特に重要でもなさそうな話を繰り広げ、そして彼は彼女にとどめをさそうと思ったのか腕を振り上げた。その時、財前からの合図が出た。俺はお嬢様に向き合う形で跪き、財前は彼のその一振りを受けとめ、しかしそこからは鈍い音を発していた。 「しら、いし…?財前まで……」 「お嬢様、話は後や。ほら、」 ここまでの経緯を話しているほどの余裕はない。だからと急かすように俺の首元をあらわにして見せたが彼女はその意図を汲み取るなり首を横に振った。どうして。 「いま吸ってしまったら、白石の命が、」 「それでもええよ」 「なんで、」 困惑を浮かべるお嬢様。なんでだなんて決まってる。彼女は吸いすぎたとしても俺が死なないところで必ず止める。それに例え死んだとしても。 「お嬢様の望む世界を作る手助けになるなら、俺は構わん」 「!」 その覚悟が揺るがないと伝わったらしい。彼女は辛そうに顔を歪ませて、それからそのまま辛そうなのを隠さないまま笑った。 「白石と会えて、よかった」 「、」 「ありがとう、白石」 そう言って彼女は俺の首にその牙を穿つ。血が吸いとられるようなそんな感覚と一緒に俺の意識は遠のいていく。 「お嬢、さ、ま」 最後に見たのは、凛々しい笑みだった。 幸せになるための正義 |