「…白石サン」 目を丸くしたのは財前。俺を呼ぶオサムちゃんの声を無視して母校を飛び出し、そして駄目元で訪ねてみれば財前は、居た。 「財前」 「なんすか?あいつなら、」 「お前らの世界に行くには、どないしたらええんや」 「!、」 財前の話を遮り本題を口にすれば、財前の表情が歪んだ。分かっている。干渉してはいけないのだと。俺のようなただのヒトはなにも出来ないのだと。だけど、だけど俺はやっぱりお嬢様を護りたい。一瞬だとしても、彼女の助けになりたい。 「頼む、」 「…………か」 「え、?」 「なんのために、どんな思いで、あいつがあんたをクビにしたと思ってんのや」 「、」 元々良いとは言えなかった目付きが、より一層鋭くなって俺に向けられた。財前のこんな表情は、見たことがなかった。怒って、いる。 「あんたが無事であること。幸せであること。それがあいつの望みやねんぞ。それを壊すようなこと、俺は絶対に教えへん」 「財前、」 「俺がこっちに残っとるのも、オサムちゃんがなにも出来ひんのも、あんたがクビになったのも全部あいつの思い故、やねん。なんで分からんのや」 「、」 「あいつが一番怯えとることは、大切な存在を失うことやねん。なんでか、なんて分かるやろ?」 それは俺が彼女に仕える前の出来事。オサムちゃんから聞いた話。彼女から一度も口にされなかった話。彼女が俺と出会うまで、人との関わりを自ら絶っていた理由。 「…両親の、死……」 「せや。あいつは目の前で最も大切な人たちを失っとるんや。その時にあいつは自分を守ったからやと自分を責め、そんで孤独を選んだ。けどあんたと会って、変わって、あいつの中で大切な存在がまた出来たんや。けどもう失うわけにはいかへん、やからあいつは俺らをこっちに残したんや」 「………」 「分かったれや、あいつの気持ち」 辛そうに、まるで自分も同じ思いをしたかのように、財前は言った。だけど、大切な存在を失いたくない、なんてお嬢様に限った話やない。俺がそうであるようにまた目の前の彼だってきっと。 「俺かて、お嬢様が大切や」 「………」 「財前も、そうやろ?」 「…それは、」 「そもそもここのところお嬢様は血を吸っとらん。本来の力、なんや到底出せるわけあらへん」 「は、?」 「相手は血を強く求めとるから争いを起こそうとしとるんやろ?っちゅーことは少なくともお嬢様よりかは源である血を吸っとる」 「あいつ…!」 「……なん、お嬢様に騙されたん?どうせ俺の血を貰ってきたから大丈夫、とか言うたんやろ」 「騙しよって…!」 「…まあ、これで財前が行く理由は出来たやろ?」 「けど、白石サンは、」 「力を与えに、っちゅーとこやろ」 「………」 そしてニヒルに笑って見せた彼はそちらの世界へと連れていってくれる。なんだ、やはり財前もお嬢様のことが心配で仕方ないんじゃないか。本当に彼は素直じゃないらしい。あんなに怒るほど大切に思っているなんて、思いもしなかった。そんなことを思いながら、先を行く彼の背中を追いかけた。あと、もう少し。 愚かなのは君じゃないか |