Gardenia | ナノ



気づけば謙也とすっかり話し込んでいた。


「お嬢様」

「おかえり、白石」

「大分楽しんだみたいっすね」


財前のところへお嬢様を迎えにいけば、彼女は微笑んだ。だけどその笑顔がどこか力なく見えた。もしかして人に酔ったのだろうか。確認すれば大丈夫だ、とへらっと彼女らしくない笑い方をしたので俺は財前と主催者に一言告げてから会場をあとにした。


「………」

「………」

「白石」

「ん?」

「……、楽しかったか?」

「お嬢様のおかげで楽しかったで」

「そう、か」

「おおきに」

「………」

「………、」


だけど彼女は帰りの車の中でもいつもと様子が違った。全然元気がない。普段(というほど頻繁には行ってないがそれでも行ったときに)はパーティーの最中に気分が悪くなろうとなんだろうと、あいつは相変わらずどこか失礼だとかあの料理は美味しかっただとか何かしら感想を述べている、のに。今日は本当になにがあったのか俺には分からなかった。ただ元気がない、としか言いようがなかった。


「……ただいま」

「…今日は疲れたやろ、すぐ準備するさかい風呂入り」

「いや、いい」

「、」

「明日入るから、いい」

「お嬢様………?」


一体どういうことなのか、分からなかった。ただ彼女はすたすたと自室に入っていってしまった。着替えるのだろうか、と彼女の後についていた俺はその様子が見えないように扉の横に立つ。そしてしばらくがさごそと音が聞こえてから、俺を呼ぶ声がすぐ隣からした。寝巻きに着替えた彼女はやはり元気がなかった。


「…どないしたん、ほんまに」

「………」

「人に酔っただけやないやろ」

「なあ、白石」

「ん?」

「抱き締めてくれないか」

「は、」

「少しだけで、いいから」


なんの冗談を、とは言えなかった。だって彼女はどう見ても真剣で。だけど抱き締めろ、など今まで言われたことがないそれに戸惑う。そんな俺の心情を察してか彼女は小さくすまない、と答えた。その声が今にも壊れてしまいそうなほどか細くて。だから俺は理由を考えるよりも先に彼女の頼み通りに行動を起こす。初めて抱き締めた彼女の身体は想像を遥かに越えるほど細かった。この子はこんな小さな身体で様々なことに耐えているのかと思うと、急にいとおしくなって、少しだけ力が入った。それに驚いたものの、彼女は俺の胸に顔をうずめた。


「ありがとう、ごめんな」


だけど、呟かれた二つの言葉の意味を、俺はその時、履き違えてしまったのだった。













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