「ご無沙汰してます」 「ふふっ、心配されるようなことはないですよ」 「はい、お恥ずかしながら両親の仕事について学ぶので精一杯で…」 と似たような台詞を何回も吐くのはどれほど疲れるのだろうか、とお嬢様を見て思う。久し振りの社交パーティー。彼女に言われた通り俺も出席させてもらった。とは言え半ば無理矢理だが(まあそれもそうだろう、俺だけしか居ないと言っても端から見れば俺は結局ボディーガードではなくてただの使用人なのだ、ただの使用人がそう簡単に通してもらえるとは思えない)。そんなことも気にしない彼女はさっきから俺を家族のように紹介しているのだがこれは良いものやら。どれだけそっちの血を引く人間が居るのか俺には分からないが、どれだけ居たとしても、今まで挨拶した中に居たとしても全然分からない。 「財前!」 「どーも」 「一人なん?」 「や、兄貴らがあっちに」 そうして途中で遭遇した財前は財前で少し疲れたという感じだった。時々社会勉強も兼ねて兄夫婦に付いて出席しているらしいが、やっぱり財前の性格上あまり進んで来たがるものではないらしい。あんなに兄夫婦は楽しそうなのに。兄弟と言えど相当タイプが違うらしい。ただ、あまり好ましく思えなくとも出席する時にはちゃんと出席する辺り、なんだかんだ言っても財前はやはり真面目だなと思わずにはいられなかった。 「せやけど、久し振りに出たら出たでお前も大変やな」 「何年ぶり、という話だから仕方ない…。それにしてもみんなわたしに気づくなり次々と話し掛けてくる」 「ま、そのお陰で俺はあまり話さなくて済んどるけど」 といつもならもっと話すのだが今日はもう一言二言交わしたところでお嬢様はそれじゃ、と財前と別れた。そして俺は別れ際に財前に白石サン良かったっすね、なんて言われたがなにが良かったのだろうか。と俺は疑問符を浮かべたまま彼女と共に行動して、そうしてそれぞれ社交辞令も済んだらしく、人波の流れが少し落ち着いてきた。 「相変わらず賑やかだな」 「大丈夫か?」 「大丈夫だ、それにまだ弱音を吐くわけにはいかない」 「?」 なんだろう、今日はお嬢様も財前もなにか違う。いや、俺がふたりの心情をなにもわからないからそう思うだけか。そんなときだった。 「…白石?」 不意に懐かしい声音で呼ばれた俺は一瞬身動きがとれなかった。そしてその隙に声の主に話し掛けたのは俺ではなくお嬢様。 「お前が、白石の同級生か」 「お、おん。きみ、は?」 「白石を雇わせてもらってる」 「!そか、きみがオサムちゃんの言うとった…」 「ああ。…わたしの都合とはいえ、長らく会わせることが出来ず申し訳なかった」 「い、いや…」 「束の間かもしれないが、それでもわたしが今日ここに来たのはお前と白石を会わせるためだ」 「え」 「白石。わたしは財前のところに居るから、少しの間だけど、楽しんでくれ。なんなら明日まででも構わないから」 それじゃ失礼する、とお嬢様は 俺たちを置いて足早に人の波に紛れていった。 意図的な偶然 |