「その…、秘密にするつもりは、なかったんだ」 言いにくそうに俯きながら、お嬢様は話した。 「わたしは、一応、王族なんだ」 「………」 「もちろんわたしたちの世界でも王族は要。世界の行く末はすべて王族が握っている。王族はその能力値も高く、誰も勝つことはできない」 そうして話されたのは俺が知らない、お嬢様の身分。俺たちヒトの世界ではこの家は大量の土地の権利をもつ地主として名が知られとる。が、彼女たち吸血鬼の世界ではそんなもんじゃなかった。王族、て。 「だけど、わたしは王族として吸血鬼の世界を統治していくつもりは、ない」 「え」 「ただ、ヒトと共存してほしい。争いが起こらないように平和に暮らしてほしい」 それこそ、財前とか、わたしみたいに。とお嬢様はどこか悲しげに笑った。まるでその願いは叶わないかのように。 「まぁ、彼もきちんと取り締まってくれているらしいから心配ないだろう」 「彼?」 オサムちゃん?と聞けば首を振った。それなら誰なのか。疑問符を頭に浮かべていると彼女はそのうち会えるさ、と笑って紅茶を一口飲んだ。 「そういうわけでまだしばらくは世話になる」 「、」 「16で結婚などと冗談じゃない」 「ああ…」 「文の返事を出してない時点で気が付いたくせにあいつは…」 そこでうん?と首を傾げたのは俺。文の返事を出してない、って言った?そうして蘇るのはいつの日だったか。俺は確かお嬢様に、どんな間柄だろうとどんな返答であろうと文が届いたと知らせる意味も込めて返事は出すように、と言い聞かせたはずだ。お嬢様も分かった、と適当にではあるが返事をしていた。のに、今なんて言った?文の返事を出してない時点で? 「お嬢様?」 「、」 少し低めのトーンで言ってやれば彼女も俺がなにを言いたいか気が付いたらしく、少しだけ顔が青ざめた。 「いや、あの、これは、」 「返事はするように、て前言うたよなぁ?」 「え、ええと、」 「もしかして他にも返事しとらんのとちゃうん?」 「え、あ、」 つーっ、と彼女の頬を汗が流れた。 世界からの虚脱 |