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そして次にやって来たのは暗雲であった。


「久し振りじゃな、姫」


にっこり。そう笑う彼とは対照的にお嬢様の顔はひきつった。日曜日の昼下がり、彼はお嬢様を訪ねてきたのだというので家にあげてみれば彼女は客人である彼を見るや否や


「ぅげ」


なんて可愛げもない声をあげたのだ。それから気まずそうに俺とも彼とも視線を合わせようとせず、そしてとりあえず立ち話も失礼になるのでと俺は彼とお嬢様を椅子に座らせた。もちろん俺はお嬢様の少し斜め後ろで待機。財前相手なら自由に座ったりと、ただの友人のように振る舞えるのだが初対面(…なのは俺だげだが)の相手の前ではいつものようにお嬢様に振る舞うわけにもいかない。


「あー…、どちら様、ですかね」

「おっと、これはすまんの」

「いえ」

「俺は仁王雅治。こっちの世界じゃ姫の家に仕えとった一族として有名な方じゃ、まあ、よろしくな白石」

「…よろしゅう」


やたらと色気のある笑みを浮かべて彼は笑った。それにしても、引っ掛かる単語がいくつかある。姫、仕える、など。もしかしてこのお嬢様、俺が知らないだけでそっちの世界でも相当有名人なんじゃ、


「で、今更なんなんだ」

「今更、とはつれないのう。ようやく義務教育も終わるのに」

「まさか見合いでもさせようって魂胆じゃ」

「嫌がるのも分かるが、姫ももう16じゃき。そろそろ色恋沙汰の1つでもしたらどうじゃ」

「だからわたしはヒトとして生きるって、」

「20まで?笑わせなさんな、姫様」

「、」

「これまで学校にまともに通っとらんのに、なにを言うんじゃ」

「………」

「そうやってこれからも世間との関わりを避け続けるんじゃろ?なら20まで待つ必要なんか無かろ」


そうしてお嬢様は、黙った。詳しい事情はよく分からないが、とりあえず16になるお嬢様に仁王は見合いを迫っている。そしてこれは推測でないが、そっちの世界ではおそらく16が成人なのだろう。だけど、と俺はもやもやした気持ちが渦巻くのを自分で感じた。


「失礼ですが仁王様」

「なんじゃ」

「お嬢様は勉学を怠っているわけではありません。ただ自分の身分をわきまえて幼いヒトの子との関わりを避けているだけです」

「ほう」

「それに彼女はまだ知らないことばかりでこれからが大切なのです。どうかその大切な将来を奪うような真似はなさらないでください」

「し、白石…」


自分でも冷たく言い放った、と思った。だがそれだけ彼女を守りたいのだ。所詮俺はただのヒトでしかないが、それでも彼女の従者なのだ。たったひとりの、従者なのだ。主を守ろうとしても許されるではないか。


「しょんなか」


カタン、と仁王は椅子から立ち上がりそして俺にニヒルな笑みを見せた。


「今日は引き下がっちゃる」

「申し訳ありません」

「じゃが、姫もよく考えておくんじゃな」

「…雅治、きみは、」

「それじゃ、失礼するぜよ」


そう言って彼はひらひらと手を振って部屋を出ていった。一応客人なのだから送らねば、と後を追ったがすでにそこに姿はなかった。














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