「で、どういう風の吹き回しなん、それは」 紅茶を口にしながら気になっていたと言わんばかりに財前は彼女に訊ねた。彼女はなんのことを言われているのかぴーんとこないらしく、首を傾げている。 「髪」 「え、あ、ああ」 「めんどくなったん」 「どうしてきみも白石もそれが一番最初に浮かぶんだ」 むす、と不満に顔を歪ませるお嬢様ではあるが普段の生活を知っている俺たちからしてみればそれ以外の理由が出てくるより先に、面倒臭いのでは、という推測が出てきてしまうのだ。だからそれは不可抗力としか言いようがない。というのはあえて黙っておいた。長い反論をされても困るからだ。だがお気に入りの洋菓子があるからか、それを一口口にいれた彼女はすぐそんなことはどうでもいいが、と話を戻す。どうやらこのお嬢様、好きなものが目の前にあると機嫌のなおりが早いらしい。良いことを学んだ。 「わたしももうじき高校生になる」 「校則引っ掛かるんちゃうか」 「そうかもしれないが、時間がなくなるだろう」 「染める時間が?」 「学校や社交パーティーに時間を裂くようになる。つまりそれはそれ相応の疲労も増え、就寝時間が早まるということだ」 「まあ、そうやろうな」 「ということは、俗にいうプリン…わたしの場合は逆プリンか…?まあその状態が見て分かるようになったとしてもすぐに染められるかと言われたらそれは確実ではない」 「白石サンに時間あってもお前が疲れとったんなら出来ひんやろうな、それは」 「だろう?ならばいっそ最初から地毛を見せていれば済むと思うんだ」 幸いわたしは外国人のような顔つきのようだから話せば分かってもらえるだろう、とお嬢様はそこまで言うと彼女が食べていたケーキをまた一口食べる。 「フーン」 「しかしわたしは財前が羨ましいよ」 「あ?」 「元々の髪が馴染みある色というのは」 「へぇ」 「あ、そういえば白石」 その話はそこで終わりのようらしい。彼女は思い出したように俺に声をかけた。自然と財前の視線も俺を向く。 「きみ、わたしのこと送り迎えするのか?」 「それも仕事に入っとるしするつもりやけど」 「…ふむ、そうか」 「?」 「白石サン居ったらまずいことでもあるん」 「い、いや!そう言うわけではない!」 「?そうなん?」 「…うん」 気にするな、と言うから気にしない方がいいのだとは思ったがどうも彼女の表情は曇っていた。なにかまずいことがあるのだろうか。財前はなにか納得したのかへぇ、とこぼした。 「ま、嫌だったら言うばずやし気にせんといてもええんちゃいます?」 「…それも、そう、やな」 「…財前、きみ……」 「ん?」 「…、……いや、なんでもない」 「フーン?」 彼女が何を思っていたのか、財前はその態度で分かったらしい。にや、と笑みを浮かべて見せれば彼女は頬を赤らめて威嚇するように睨んだ。彼女の曇った表情の原因がわからない俺はただそのやり取りを見て珍しい表情を見せた彼女に驚いた、のと同時に可愛らしいと思った。 特別なまなざし |