しばらくして泣き止んだあたしは光に明日は朝練も行けると思うから心配しないでということを言い、蔵にもそう伝えてもらうように頼んだ。そして鞄をとりにいって誰にも会うことなく家に帰った。帰ると学校から連絡を受けていたらしいお母さんが仕事を早めに切り上げて帰ってきたらしく、その表情はものすごい心配しているのが伺えて更に病院に連れていこうとしたくらいで蔵や謙也、テニス部やクラスの友達からもお母さんほどではないけど大丈夫かというメールがきてて一通り返事をしてすぐ寝た。ただその中にユウジからはやっぱりきてなくてずきずきと心が痛んだけど元々気まずかったし、何より今日あたしがユウジから逃げたんだから仕方ないと言い聞かせた。 「おはよー」 「今日は大丈夫?熱計った?」 「うん、熱もないしいつも通り」 「よかった…」 起きるとお母さんはばたぱたと昨日みたいに眉を思い切り下げた顔で聞いてきたけどあたしの言葉を聞くと安堵の息をついて、あ、と思い出すように手をぽんとたたいた。 「?」 「愛理が寝た後なんだけど」 「うん」 「ユウジくん、来たわよ」 「………、」 「愛理が寝てること知ったらすぐ帰っちゃったけど」 お見舞いだったのかしらね?と首を傾げるお母さんにさぁ?と何もなかったようにあたしも首を傾げて支度をした。そんなこと聞かれてもあたしだって分からない。昨日あんな気まずい空気になったのに…。 「愛理おはようさん!」 「おはよう、金ちゃん」 「もう大丈夫なんか?」 「うん、心配かけてごめんね」 「せやでー!ユウジなんかワイらより何倍も心配しとったんやで!」 「え、」 「やって…、あ!」 金ちゃんが先の言葉を紡ぐ前に誰かに気付いたのとあたしの頭にぽんと手が置かれたのと同時だった。わしゃわしゃと乱暴に撫でられてびっくりして横を見ればユウジで。昨日あんな雰囲気のままであたしが逃げちゃったから何言えば良いんだろうと混乱しているとユウジは何も言わずに部室へ入っていってしまった。金ちゃんはどないしたんー?とユウジに聞きながら一緒に部室に入り、あたしはそのまま立ち尽くしてしまった。 「お、回復したんやな!」 「謙也、」 「っちゅーかどないしたん部室入らへんの?」 「え、あ、うん」 謙也は朝から元気よくておはよーさん!とドアを開ける。あたしもいつまでもぼーっとしてたら駄目だよねなんて謙也に続こうとしたら肩をつんつんと突かれた。 「、」 「もう大丈夫なんすか」 「うん、熱は「精神的な面で、っすわ」 「…なんとか」 「ならええですけど」 すたすたと部室へ入る光にお礼を言ってないと、少し大きな声になっちゃったけどありがとうと言えば光はいつもの笑みを浮かべた。 「ほな今日は愛理も回復したし張り切っていくでー」 蔵のそんな言葉で朝練が始まって、みんなそれぞれの場所に散っていく中、謙也があたしに話し掛けてきた。 「そういえば昨日みんな心配しとったんやで」 「、」 「特にユウジなんか「謙也」 「あ、噂をすれば」 「ラリーするんやろ、小春待たせる気か阿呆」 またもユウジの昨日の様子を聞く寸前でユウジが遮った。謙也はスマンスマンと苦笑いをしたあとまた後でな、とあたしに手を振る。あたしも軽く手を振りかえしたんだけどユウジはあたしに声を掛けなければ目すら合わせてくれなかった。 少年と少女 結局ユウジはあたしと一言も言葉を交わしてくれなかった。話したかったんだけど、な。 |