どこに向かうなんて思わずただひたすらに走っていたら、華月がふと目に入った。 『やっぱあたし2人のお笑いが一番好きだな』 『、愛理なんかに言われても、別に嬉しないわ!』 『え』 『愛理ちゃん、ユウくん照れとるんよ』 『こ、小春!』 『あはは、ユウジって照れ屋なんだ』 『わ、笑うなや!死なすど!』 そんな会話もしたなぁ、なんて付き合う前の出来事を思い出した。お笑いのことがそんなに詳しいわけじゃないけど、それでも見たことあるお笑いの人たちの誰よりもユウジと小春のお笑いは楽しくて面白い。それは今でも思っている。でもいつからか2人のお笑いをテニス以外で見ることも無くなって、お笑いの話をすることも無くなった。どうしてあたしとユウジに距離が出来たんだろう。大きなきっかけなんかない。喧嘩だってしたことないといえば嘘になるけど距離が出来るきっかけになるような大きな喧嘩はしてない。ユウジは分からないけどあたしは今でもユウジが好きだから避けるなんてことは一切しなかった。じゃあ、どうして――― 「愛理先輩?」 「ひかる、」 「…何が、あったんすか」 不意に声を掛けられて振り向くとこれから部活に行くであろうテニスバッグを背負った光が居た。光はあたしを見るなり眉をひそめた。 「別に何も、」 「嘘や。こないに涙溜めて何もあらへんわけがない」 「………、」 光はそのまま手を伸ばしてあたしの目尻を拭う。それから少し沈黙が流れたけど何も言わないあたしに痺れを切らしたのか光は一氏先輩ですか、とぽつりと呟いた。あたしがその呟きに静かにうなずけばハァ、とため息を吐く。 「愛理先輩は一氏先輩が好きなん?」 「…すき」 「せやけど一氏先輩はどうなのか分からへん」 「…うん」 「けど別れ話はされへんのやろ?」 「…会話という会話すらしてないもん」 「メールもこないん?」 「…うん」 光は聞くだけ聞いて黙る。何を考えているのか分からないあたしはただ地面をぼんやり見つめた。 「…愛理先輩は一氏先輩とゆっくり話すべきやと思います」 「………、」 「自然消滅は嫌やろ?」 「嫌だ」 「それならやっぱりお互い言いたいこと言うた方が結果がどうであれええと思いますけど」 確かに自然消滅より話し合った方が良いかもしれないけど、でもそれでユウジが他校の女の子が好きになったとか言ってきたら結局別れることになるじゃん…。 「まぁ、とりあえず」 「え?」 「今後のことは後で考えるとして、泣きたいんやったらどうぞ」 光はあたしの腕をぐいっと引いて自分の方に抱き寄せ、空いている手で頭を撫でながらそう言った。こんな状況で泣けるわけない、なんて思ったものの光と1センチくらいしか変わらないユウジに抱き締められた時のことが脳裏をよぎったおかげで目に溜まっていた涙は溢れた。 「ご、ごめん、ね、ひかる」 「どうせ俺らくらいしか居らんし、気済むまで付き合いますんで」 「ありがと…」 少年と少女 もう一回だけでもいいから、ユウジに抱き締められたい。そんなことを思いながら声を押し殺して泣いた。 |