「少しは楽になった?」 「………はい」 「まあ、あれだけ寝とったから楽になってなきゃ可笑しいか」 くすくすと先生は笑いながら言った。結局寝たフリをしていたはずだったのに本当に寝てしまい、起こされた時にはもう部活の時間だった。掃除時間に蔵が様子を見に来たらしく、心配だから帰る前に顔を見せに来てと伝言を言われた。あたしは怠さが抜けた身体を起こしてテニスコートへ向かう。その途中だった。 「悪いけどそれは無理や」 それは他のどんな音よりはっきりと聞こえた。すっかり人気のなくなった階段の踊り場でユウジが女の子と向かい合っていた。あたしは思わず隠れて聞き耳をたててしまった。 「なんで、」 「お前のことそういう風に見てへんし」 「けどこの前女の子と腕組んで歩いとったやん!」 「それとこれと関係無いやろ」 「やって彼女以外の子と腕組んで歩くなんや浮気しとるのと一緒やで!」 ああ、女の子に呼び出されたんだ。きっと遊びでもいいからとお願いしたんだろうな、直感だけどそう思った。別に告白されるのは大したショックじゃない。ただ、ユウジが他の女の子と腕を組んで歩いていたことを否定しなかったのが、ショックだった。だってそれってつまりあたし以外の女の子とデートしたっていうのを認めたも同じでしょ? 「今むっちゃ噂になっとるんやで?一氏くんが女遊びしとるんちゃうか、って」 「なんやそれ」 「それに最近彼女さんと一緒に居るとこかて見たことあらへん」 仲良く話しとるとこすら見たことあらへん、女の子ははっきりとユウジに向かって言う。やっぱり噂になるほどみんな気になっているんだ、ユウジがあたしじゃない子と多く接していることに。 「…一氏くん、ほんまに彼女さんのこと好きなん?」 ユウジが反論も何もしない。その質問にすら答えない。なんで、なんでそこで肯定してくれないの。もしかして本当にあたしのことなんてもうどうでもいいの?沈黙にあたしは胸がきゅうと締め付けられるような感じがして、苦しい。 「…とにかく、俺はお前と付き合えへん」 「、」 「そういうことやから」 「………」 どっちかの足音が遠退いた後、あたしはずるずると落ちて座り込んで制服をぎゅっと握って深呼吸した。でもいくら深呼吸しても落ち着けなくて、胸は苦しくなっていくばかりで、涙もついには溢れてぽたぽたと制服を濡らしていった。 「愛理」 「!」 「………、」 肩がびくりと震えた。俯いてた顔を上げるとユウジが立っていて、少し目を丸くしていた。 「…聞いてたんやろ」 「………」 「………」 「………」 「…スマン」 ユウジは聞いてたことを咎めるわけでも事情を話すわけでもなくなくただ謝った。その謝罪が何を示すのか分からなくて、分かりたくもなくて、逃げるように走りだした。 少年と少女 真実があたしの望まないものかもしれないなら、聞きたくない。 |