「あのね」 琴音は3年間のことを、少しだけなんやろうけど、話してくれた。 「あたしずっと寝てたけどみんなの声、届いてたよ」 「みんな、あたしに早く起きてって言って」 「そのたびにあたしも早く起きたいって思った」 「実際、あたしが起きれたのってみんなのおかげだと思うんだ」 琴音は優勝トロフィーを眺めながら話続ける。 「みんなが飽きずにあたしのとこに来てくれたから諦めれなかった」 「本当は1年経ったくらいで諦めようとしたんだ」 「きっと謙也とかは知ってるだろうけど」 「植物状態ってそうなってから1年以上経っても治りそうな気配が見れなかったら回復の見込みはゼロに近いんだって」 「だから1年が経ったくらいであたしはもう駄目だって思った」 「でも金ちゃんは毎日来てくれたし、みんなだって毎日じゃないけどまめに来てくれた」 「事実を知ってるであろう謙也やオサムちゃん、蔵も来てくれた」 琴音はそこまで言ってワイらを見て、笑って、言った。 「見捨てないでくれて有難う」 それは見たことないくらい優しい笑顔やった。 「あたし、テニス部のマネージャーで良かった」 「みんなが居てくれて良かった」 「みんなが話しに来てくれたからね」 「植物状態だった3年間も」 「みんなと生活してたような気になるの」 「不思議だよね、あたしはみんなの声しか聞いてないのに」 「どんなふうに過ごしたか映像として思い浮べることが出来る」 「あたしの3年間、ちゃんと満たされてる」 「そこにあたしが居なくても」 「あたしが居たように思えるんだ」 幼い赤と眠り姫 これって変かな?琴音は聞いた。でもワイらは誰もそれを変なんか思わん。おかしいと思わんかった。むしろワイは、琴音の3年間がそういうふうになって良かったと思う。空っぽやのうて、ほんまに良かったと思う。 |