「ワイ、来月から琴音より年上んなってまう」 卒業証書を持って、ワイは誰よりも先に琴音のとこに卒業したことを言いに来た。空気の入れ替えなんか分からんけど病室の窓が開いとって、琴音のベッドの近くに桜の花びらが落ちとった。 「あと半年も経たんうちに、全国大会やで」 「白石たちと、全国行くんや」 「近畿大会やっけ、それは絶対優勝すんねん」 「やって白石たちもワイもぎょうさん強くなってんもん、余裕や!」 「それに全国で優勝するんや、余裕で突破せなあかんやん」 「琴音」 絶対琴音に優勝トロフィー見せるから、 「琴音、待っとってな」 その時、風が強く吹いて桜の花びらがたくさん病室の中に入ってきた。風が強かったから琴音のベッドにも乗って、それを見てたら、なんや分からんけど胸がきゅうって苦しくなった。そんで、琴音の言葉が脳裏を過った。 『金ちゃん』 『金ちゃん、あたしね』 『桜がすっごい好きなの』 『なんか、桜見てると金ちゃん思い出すんだ』 『なんでだろ』 『金ちゃんも桜も春だからかな』 あの時、首を傾げたワイ。でも3年経つ今も、なんで桜を見てるとワイを思い出すのかよう分からん。髪の毛の色やろか、ワイも桜も春のもんやからやろか。 「…琴音」 「ワイ、琴音が起きたら花見に行きたい」 「琴音の好きな桜、一緒に見たい」 「そんでな、なんで琴音が桜見るとワイのこと思い出すのか、知りたい」 「来年でも再来年でも、もっと先でもええから」 「琴音の好きな桜、見に行こや」 な?と笑いかける。返事はないけど、琴音に届いてたらええな。そう思っとたら病室のドアがガラッと開いた。 「金ちゃーん」 「あ」 「連絡くらい寄越しや」 「堪忍、白石…」 金ちゃんの卒業パーティーするって言うたやろー?白石たちは苦笑いをしながら、手にいろんなもん持ってこっちに来た。 「まぁ、なんとなく此処に居るって思っとったけどな」 「え、」 「せやからちょっと貧相になってまうけど此処で祝えるように色々持ってきてん」 「琴音はんも祝いたいやろうと思ってな」 琴音も含めて、みんなで卒業祝いしような。オサムちゃんもやってきて、ワイはみんなに囲まれて卒業おめでとうって祝ってもらった。 幼い赤と眠り姫 「…あれ」 「どないしてん、謙也」 「いや、此処から見える桜、他のとこより綺麗やない?」 「そうなん?」 「おん、敷地内のどこより綺麗や」 「言われてみればめちゃめちゃ満開やな」 「…琴音の力やったりして」 「え?」 「琴音、今寝てるからなんも言えへんやん。やからせめてって感じで桜にテレパシーでも送ったんちゃう?」 「何言うとんねん謙也」 「けどそれやったらよか」 「っちゅうか琴音って桜好きやから絶対そうやろ!」 「そりゃ良かったやんか」 「…琴音も祝ってくれとるん……?」 「おん、金ちゃん卒業おめでとうって琴音も祝っとる」 良かったな。みんなしてワイの頭をぐしゃぐしゃって乱暴にやけど撫でてくれて、もう一度桜を見るとほんまに綺麗で琴音もおめでとうってほんまに言ってくれてる気がして、もっと嬉しくなった。 |