dream | ナノ



「すき」


不意に言いたくなって、二文字だけ打って、宛先も入力したけど、送らずに下書きとして保存をした。


「…会いたいなあ」


ぽつり、と呟く。どうせ明日になれば会える。だけどみんなが居る手前、堂々と話すことが出来ないわたしたち。周りがわたしたちの関係を知らないわけではない、もうみんな知っている。だからこそ話しにくかった。周りがどう思うかが、こわかった。


「………」


光くんが好きなんだと教えてくれたひとの歌だけが流れる静かな部屋で、彼に会いたいという気持ちがつのる。だけど電話をする気にはならなかった。


「別に、したいならすればええやん。俺もそうやし」


前に彼が言ったことを思い出す。電話をしたいけど、邪魔をしたらと思うと掛けれないんだと打ち明けたときに言われた言葉。遠慮はいらない。それくらい打ち解けられていることに喜びはあるけれど、やっぱりわたしから電話をかけるのはなかなか出来なかった。だってわたしと違って光くんは部活で忙しい。だからきっと疲れていて、そんな彼が休む時間をわたしなんかのために裂きたくはなかった。そんなとき、不意に手にしていた携帯が鳴った。光くんからだった。一つ深呼吸をしてから、電話に出る。


「もしもし、」

「あ、出た」

「え」

「起きとった?」

「う、ん」

「なら良かった」


あまり調子の変わらない声で、光くんは言った。嬉しくて高鳴る胸を必死に抑えながら、なんでもないようにどうしたの?と光くんに聞くと沈黙が流れてしまった。


「…ひかる、くん?」

「電話したなっただけやけど」

「!、」


ぶっきらぼうに、だけどはっきり告げる光くん。その言葉に驚きながら、わたしはさっきメールで送ろうとしてやめた言葉を紡いだ。


「は、」

「い、言いたくなった、だけ」

「…、……」


電話の向こうで目を丸くしている光くんの顔が、たやすく思い浮かべられた。それもそうだ、と思う。わたしたちが好きと紡ぐなんてそうないことだった。光くんはクールというかツンツンしてるからもちろんだけど、わたしも結構大人しいからお互い好きだという気持ちを伝えることはない。だからこうして唐突に言われ、驚くのは当たり前と言えば当たり前だった。


「…ユイ」

「なに…?」

「明日、部活終わるの待っとれ」

「え?」

「勝手に帰ったらしばくで」

「あ、あの、?」


変わらずぶっきらぼうなまま告げられる言葉に理解をするのが遅れる。だって、今までそんなこと言われたことなかったから。つっけんどんではあるけれど、光くんは要するにわたしと一緒に帰ろうと誘ってくれているわけで。更にはいつも来るもの拒まず去るもの追わずのようにわたしになにも強いてこなくて、言ってしまえば放任主義な彼が強引さを見せた。そんなことだからわたしの顔は自分でもわかるくらい熱を持った。


「光くん、」

「なん」

「好き」

「っ、」


悔しくてもう一度紡いだ言葉。だけど光くんは少しの沈黙の後に同じ言葉を紡いでわたしにカウンターを仕掛け、そしてそれは見事に成功したのだった。





そして次の日。白石先輩にどこかへふらふらと行ってしまった光くんの行き先を聞かれ分からないと答えると思わぬ言葉が降りかかってきた。


「ユイちゃん、今日財前と帰るんやろ?せやったら教室やなくてコートおいで」

「えっ」

「近くで財前の練習見たいやろ?初めて待たせるっちゅー話やし可愛え後輩のためなら特別にベンチ座らせたるで」

「で、でも、」

「財前には上手く言うとくし、…あ、先輩から質問攻めとか嫌やってんなら無理にとは言わへんで」

「そ、そんなことは、ないです!」

「ほな待っとるからおいでな」


ぽん、と頭を優しく撫でて先輩は去っていった。そしてそれを遠くから見てた光くんのご機嫌をとるのにわたしは昼休みを全て費やしたのだった。





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