dream | ナノ



「ンだとこの馬鹿氏!」

「馬鹿氏やと?!ええ度胸やなぁ!」


がたがた、と音をたて立ち上がる。先生も他のみんなもあたしたちを見て目を丸くする。でもみんなはまたかといった表情を見せた。あたしとユウジはいわゆる犬猿の仲ってやつだ。入学したときからこんなんでヒートアップすると周りが見えなくなって胸ぐら掴んだりする。あたしは昔から男勝りな性格で、かわいいとかよりかっこいいって言われることの方が圧倒的に多い。男ばっかりの家で育ったからっていうのもあるかもしれないけど、とにかく何から何まで男っぽい。喧嘩だってそれなりに強いし口は悪いし女らしさの欠けらも無いことは自覚してる。だけど今更女らしさをみがくなんてことは出来ない。それは分かってる、………はずなのになんでかあたしはこの目の前の馬鹿氏に恋した。もちろんそれはあたししか知らないことだ。周りも気付いてない。本人も知らないし言うつもりもない。ユウジは本気なのか分からないけど小春ラブ!って奴で。それだけでもこの恋は叶うわけないと分かってる。それに性別は男と言えど女らしさを持つ小春。その時点でユウジは女らしさを持つ
人間が好きなんだと分かる。まぁ、
そもそもこんな女らしさの欠けらも無いあたしを好きになる奴なんて希少価値だけど。


「お前のせいやからな」

「お前が原因だろうが」


そうこう考えてるうちにあたしたちは廊下に立たされた。ユウジのせいだ。今日はついてない。


「如月がホモとか言ったのが先やろ」

「ホモにホモって言って何が悪いんだよ」

「せやから俺はホモちゃうって言うとるやろが」

「小春に好き好き言ってる奴の何処がホモじゃねぇんだよ」


大きな声で騒ぐとまた厄介だからあくまでも声量は控えめに話す。まったく同性に好きって言う男のどこがホモじゃないんだか理解出来ない。そう言うとユウジはそっぽ向いた。なんだこいつ。


「小春への好きは恋愛ちゃうねん」

「………は」

「っちゅうか俺好きな奴居るし」

「男か」

「ちゃうわ。れっきとした女や」


ふーん。興味が無いような素振りをするけど、本当はすごい泣きたい気分だった。きっと、可愛いって言葉が似合う子なんだろう。あたしなんかとは正反対で、可愛い子。誰かも分からない子とユウジが仲良くする図を浮かべて、余計辛くなった。なんで、なんであたしは恋なんかしたんだよ。馬鹿なのはあたしだ。


「小春みたいに女の子ですって感じの可愛い子か」

「小春並みにかわええ女子居ったら俺幸せすぎて死ねる」

「きもい」

「お前最悪」

「で、誰なんだよ」

「……ユイ」

「ん?」

「…お前や言うとるやろ」

「ふーん………、はぁ?!」


思わず声が裏返った。いつも名字とかお前しか言わないくせにいきなり名前呼ぶから、同名の人かと思った、のに。


「なんだよ、ばか」

「なんやと?人が覚悟決めて、」

「…両思い……とか、」

「は?」

「う、うれし、すぎる、じゃんか、ばか…」


ああ、もう。あたしこんなキャラじゃないのに。





(………)(な、なんだよ!見んな馬鹿氏!)(お前、自分が今どんだけかわええか分かっとる?)(は?)(…あー、あかんお前可愛すぎてあかん)(お、お前の眼いかれてんじゃねぇの!)(顔真っ赤やで)(う、うっさい!)







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