dream | ナノ



ひとりじゃなければ、なんでもよかった。


「いいよ、」

「ま、まじで!?」


この寂しさを一時的にでも無くしてくれるなら、誰でも良かった。殴られたって犯されたってなんでも良かった。幸い自分はビジュアル的には周りに好意を持たれるほどには良い方のようだから、あとは優しくて付き合いがいいような、好意を持たれるような性格で笑みを張り付けていれば好かれるのは容易かった。代償として言うならば、男遊びしている女、というレッテルが貼られたくらいだ。それすらも自分からしてみればどうでもいいことだ。そんな女にだって仲良くしてくれるひとは居るし、こうして告白してくる男だっているのだから。


「待ちんしゃい」


だからわたしはどんな男からの告白も受け入れてきたし別れ話も全て頷いた。来るもの拒まず去るもの追わず、といったところだ。そしてそれがずっと続くと思っていた。少なくともこの時までは。


「…仁王くん、どうしたの?」


突然開けられた扉。そこに立っていたのはわたしと似たようなレッテルを貼られているクラスメイトで男子テニス部の仁王くんだった。うっすら額に汗をかいている。


「なにしとる」

「なにって…、告白されて、わたしがそれに頷いた、ってだけ」

「…、」


淡々と答えると彼はその綺麗な顔を歪めた。かと思えばずかずかと寄ってきてはわたしの腕を掴んだ。そしてわたしは彼に引かれるままに扉の方へと向かうことになる。今しがた告白してきた男はなにをしているんだと、そんなふうなことを仁王くんに向かって言う。ぴたり、と教室を出るところで振り向いた仁王くんの顔は明らかに不機嫌なオーラをまとっていて、思わずびくりと肩を震わせる。


「こいつは俺の女じゃ」


一度も言われた覚えのない言葉にはあ?と間抜けな声が出るもわたし程度じゃ彼の腕を振り払えるわけもなくただただ連れていかれる。


「ちょ、ちょっと、仁王くん、」

「お前さん、なにがしたい」

「え、っ」


教室から大分離れて、昇降口。ずっと黙っていた彼が口を開いたと思えばダンッ、と壁に押し付けられた。背中が痛い。


「…なにがしたい、って、なんで男遊びしてるかってこと?」

「それ以外になにがあるんじゃ」

「…仁王くんには、関係ないよ」

「関係ある」

「なにが?…大体、さっきの言葉だってどういうこと」

「そのままじゃけど」

「は、」

「やけんこういうこと」


わけがわからない、と突然に口を塞がれて思った。どういうこと、彼はなにがしたいの、わたしになにを望んでるの、と何度もされる深い口づけのなかで思う。


「…っは」

「な、んなの、ほんと、に」

「なあ」

「っ、」


息を整えていると耳元でささやかれる。わたしが聞いたことのあるそれよりも一段と低い声にびく、と身体が強ばる。


「俺と付き合うて」

「、?」

「お前さんのこと、好きなんじゃ」

「………」

「な?」


こんなに近くで好きだと言われたことなんてなくて、思わず顔が火照った。ここで拒んで教室に戻ったところでどうせあの男はなかったことにするだろうし気まずいまま一緒に居てもひとりで居るときと同じだろう。それなら、仁王くんと居るほうがプラスになる。そこまで考えて、小さく肯定した。


「絶対、俺のこと好きにならせちゃる」

「、」


ニッ、と笑う彼の顔が真剣で、どくりと胸が高鳴った。



れんあい








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