dream | ナノ



「わぁぁあ、どうしようどうしようどうしよう」


今日は部活が午前だから、って蔵先輩に言われたから午前中にお菓子を作って蔵先輩が来たときにバレンタインだからって渡そう!なんて蔵先輩がおおきにって優しく笑ってくれる顔を思い浮べながらお菓子をよく作るという由香子ちゃんにトリュフならチョコタルトとかと違って1人で食べきれるから良いんじゃない?と言われた私は由香子ちゃんに従ってトリュフを作ることにした。…のは良いんだけど私は料理が下手です。調理実習では調理に関わったら酷いことになると言っても過言じゃないくらい料理が下手です。そんな私が1人で上手くトリュフを作れるわけもなく、ましてや初めて作るんだから当たり前に失敗するわけだ。どうしよう、蔵先輩が来ると行った時間まであと1分…も無かった。


ぴんぽーん

「!」

「ユイー!」

「あわわ、蔵先輩来ちゃった!」


エプロンを少し乱暴にテーブルの上に脱ぎ捨てて蔵先輩を出迎える。蔵先輩は着替える暇が無かったのかよく分からないけどジャージのままだった。


「こ、こんにちは」

「おん、こんにちは」

「家には帰らなかったんですか?」

「あー、いや、荷物置きに少しだけな」


荷物…?テニスバッグ持ってるんだけど、他に何があったんだろう。予想が付かず首を傾げると蔵先輩は苦笑しながら話してくれた。


「女の子たちからチョコとか色々貰ってん。…俺にはユイっちゅう彼女が居るんになぁ」

「………、」


ああ、そっか。蔵先輩カッコいいもん。それにみんな私より何倍も料理が上手いからアピール出来るもんね、私より料理が上手いって。蔵先輩に限らず男の子からしてみれば女の子は料理が出来た方が良いだろうし…。


「ん?どないしてん?」

「、なんでもないです」

「そうなん?…なぁ、さっきまでなんか作っとった?」

「え」

「なんや甘い匂いとかしとるんやけど」

「えっと、あの」


あああ、触れないで!そこは触れないで蔵先輩…!という私の願いも虚しく、蔵先輩はぽんと手を叩いてバレンタインやからなんか作ってくれたん?と嬉しそうに聞いてきた。それを見て私の心はずきんと痛んだ。やっぱり蔵先輩も料理が上手い子の方が好きなんだろうか。そんなことを考え始めたら嫌でも止まらなくて、私の表情は曇っていくばかり。


「さっきから暗い顔しとるけど、ユイ?」

「………」

「もしかして、失敗してもうたん?」

「…ごめんなさい」

「何作っとったん?」

「…ト、トリュフ」


蔵先輩は失敗したということにそこまで驚いた様子もなく、私がトリュフを作ったと知るとぽんぽんと頭を撫でてくれた。お、怒ったり呆れたりしないのかな…?蔵先輩はお邪魔します、とにっこり笑って言うと迷わずリビングへ直行。あああ、キッチン汚いのに…!テーブルにエプロン脱ぎ捨ててあるし色々調理器具とか本とか散乱してるのに…!


「蔵せんぱ、あの、片付けるから、」

「…あかん、」

「へ?」


蔵先輩は急いで片付けようとする私の腕をぐっと掴む。でもその時に呟いたあかん、には怒気や悪い方向の感情は一切無くて振り向くと蔵先輩の顔は赤かった。


「ほんま嬉しい」

「、」

「ユイ、おおきにな」

「でも失敗しちゃって、」

「えぇねん、ユイが俺のために頑張ってくれたっちゅう気持ちが嬉しいねんから」


蔵先輩はもう一度おおきにと呟いて私を抱き締めた。


「失敗したっちゅうんがショックなのよりまさかユイが作ってくれるなんや思ってへんくて」

「え、」

「やって自分、バレンタインの話何一つせんかったやろ?せやからそういうの興味ないんやなって思っててんか」

「あ…、そう言われてみれば」


確かに一度も蔵先輩の前ではバレンタインの話をしなかった。甘いのは平気かとか好き嫌いくらいは聞こうかな、って思ったけど期待させて当日になってがっかりさせるのも嫌だったから言うのをやめたんだっけ。蔵先輩は私を抱き締めたまま何かに腕をのばした。顔を上げると蔵先輩の手には私が作った形の悪いトリュフ(…と言い切れない物体なんだけどね)。


「だ、だめっ」

「………美味い」

「…お、美味しいんですか?」

「おん、立派なトリュフやで」


まさかそんなことがあるわけ…、と言おうと開かれた口に蔵先輩ははいと私の失敗したトリュフを放り込んだ。


「あ、あれ、ほんとだ…」

「な?失敗したん形だけやってんな」


信じられない、それしか言葉が無かった。いつも料理しても形はもちろん、味もだめだめで人には食べさせれないくらいの不味さだったのに。そう呟くと蔵先輩は苦笑いしながらも


「ユイの愛の力やな」


なんて私に向けて言った。



(不恰好な中には綺麗な愛)


(ホワイトデーは一緒に作らへん?)(え?)(1人で作る方がええんやろうけどお菓子は作ったことあらへんねん)(私もそんなに作らないです…よ?)(それでもゼロよりはマシやん)(まぁ、そうですけど)(ほな一緒に作ろうや)(……、)(なんや不満そうやなぁ)
(だって蔵先輩器用だから私より上手そう…)(最初から上手く出来るわけちゃうから安心し?)(うー…)







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -