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「謙也―、蔵―、お昼食べ…、」


お昼休み、いつもと同じタイミングで蔵の教室に行く。光は大抵屋上に居るから誘わなくても一緒。4人で食べるのは当たり前みたいな感じになってきてる。でも、今日は…、


「ユイ、」

「…あ、謙也」

「少し待っとって、白石呼んでくるさかい、」

「っ、よ、呼ばなくていいよ」


あたしが蔵に片思いしてるのを知ってる謙也は驚いた顔を見せる。そりゃ、そうだと思う。蔵が誰かと話していても、絶対お昼は一緒ってなってて、あたしが呼べなくても謙也が蔵を呼んでくれたから。でも、今日は話し相手が違ったんだもん。蔵と凄く仲良しで、最近じゃ付き合ってるんじゃないかって噂がある花音ちゃんだったから。でも、それだけならまだ見てても我慢出来た。ただ、ただ蔵がめったに見せない笑い方をしたから。穏やかな、幸せそうな笑顔だったから。邪魔しちゃいけない。そう思ったから、あたしは謙也を連れてお昼を食べに屋上へ行った。


「先輩、そないに凹むんやったら部長呼んでもらえば良かったやないですか」

「だって、蔵のあんな笑顔、全然見たことなかったんだもん」

「…、」


あたしの言葉に何も言えなくなったのか、2人はそれについて何も言わなかった。


キーンコーン……、


長かった昼休みはそのチャイムで終わりを告げた。結局、蔵は来なくてあたしはまた落ち込んだ。2人は午後の授業に出るために立ち上がる。だけどあたしは座ったまま。


「先輩、さぼるんすか」

「…うん、こんなんで授業に出ても頭に入んないから」

「弁当箱、持ってったる。戻るとき弁当箱持って入るの嫌やろ」

「あ、ありがと」

「ほな、また後で」

「部活は出て下さいよ」

「うん、」


2人が居なくなって、1人になったあたしはぼーっと空を見上げた。そして溜め息をする。


「蔵のばか…、あたし「ユイ!」

「…え?」


ぽつりと呟いたあたしの言葉は誰かによって遮られた。驚いたあたしが振り向くとそこには蔵の姿。


「蔵、今授業中、」

「お前こそ何してんねん、なんで謙也を呼んで俺は呼ばなかったんや」

「だ、って、」

「いつも一緒にご飯食べるってなっとったんやないんか?俺と食べたないんか?」


だって蔵が幸せそうな顔してるから、邪魔しちゃいけないような雰囲気だったから、言いたいのに、どうしても蔵に言えないあたし。なんで言えないのか分からない、でも声に出せない。


「…ユイ、俺のこと嫌いなん?」

「…え?」

「俺と食べたないって、そういうことになるやん」

「ち、違っ」

「ほな、なんで?」

「っ、蔵が、花音ちゃんと話してた、から」

「………」

「いつも見せないような、幸せそうな笑顔で、邪魔しちゃいけないような雰囲気、だったんだもん」


蔵はあたしの前に来て座ると、俯くあたしの頭を優しく撫でてくれた。今の状態で優しくされたら、泣きたくなっちゃうのに…、


「堪忍な、」

「、」

「せやけど、俺はユイとご飯食べる方が幸せや」

「え、それ…、」


どういうこと?って聞こうとして顔を上げたあたしの唇は蔵のそれで塞がれた。


「こういうことや」


こういうこと、なんて言われてもあたしは突然のことに頭がついていかない。だけど蔵の笑顔がさっきと同じ、幸せそうな笑顔でどきっとした。


「く、ら」

「俺な、ユイのことが好きなんや。せやから、ユイが俺を呼んでくれるの凄い楽しみにしてん、」

「っ、」

「今日、花音に“蔵ノ介は幸せ者だよね、好きな子に毎日ご飯食べようって誘われるんだから”って言われたんや」

「、」

「…ユイは俺のこと、どう思っとる?」

「す、きだよ、蔵のこといちばん、好き」

「なら、明日からまたご飯一緒に食べてもえぇか?」


うん、絶対蔵のこと呼ぶから!そう言うと蔵はあたしを抱き締めておおきにって囁いた。





(蔵、謙也、お昼食べよ!)(ユイ、)(あ―、俺はえぇわ)(え、謙也?補習でも有るの?)(昼に補習はあらへん、ほな)(え、え?謙也怒ってるの?)(ちゃうで、気使てくれてんねや)(え、や、やだ)(4人はえぇのに2人はアカンの?)(だ、だってなんか恥ずかしい…)(照れ屋なユイもかわえぇな―)(…っ!)







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