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「ユイ―っ!」


夏が過ぎて冬がすぐそこまで来てて、寒くて堪らないこの日もテニス部は外で練習。そういうあたしもマネージャーで、防寒をして部誌を書いたりなんだり仕事をしていると聞き慣れた活気のある声と背中に軽い衝撃と温もり。


「どうしたの金ちゃん、」

「今日誕生日やからたこ焼き買うてきてん!」


背中からあたしを抱き締める手を優しく解いて抱きついてきた金ちゃんの顔を見ると寒さなんて気にしないと言わんばかりの元気な笑顔。でもやっぱり頬は寒さでほんのり赤くて。でもあたしのためにわざわざたこ焼き買ってきてくれたんだって思うと嬉しくなる。


「寒かったでしょ?わざわざありがと」

「白石がな、ユイに誕生日祝ってもらったんやから金ちゃんもちゃんとお祝いしてあげるんやで―って言うからたこ焼きならあったまるかな思ったんや!」

「今日、ちょうど懐炉忘れたからすごい助かる!ほんとにありがとね金ちゃん」


冷えきった手に出来たてのたこ焼きは若干熱いみたいで霜焼けみたいな感じになってるけど懐炉を忘れたあたしにとってはすごく有難い(金ちゃんが祝ってくれたことも勿論嬉しいけど)。金ちゃんはあたしの様子を見て嬉しそうな顔して蔵のところへ走っていった。きっとあたしにプレゼントあげたんだって報告しに行ったんだと思う。蔵には朝練のときにマフラー貰ったし、謙也には可愛いペンダント、他のみんなもあたしが好きなような物をくれて幸せ、なんだけど。


「たこ焼き、早よ食わな冷めるんちゃいます?」

「持ってるだけで暖まるから良いの」


ふーん、といつの間にか隣にいた光からはまだ誕生日おめでとうすら言ってもらってない。きっと金ちゃんとのやり取りも見ていただろうに、なんかどうでもいいみたいな、そんな感じ。


「でもみんなあたしが好きなもの分かっててくれて嬉しいな」

「そら良かったっすね」

「う、ん…」


光はそれだけ言うと謙也のところに行って打ち合い始めた。…みんなに誕生日を祝ってもらって嬉しい、はずなのに、一番言ってほしい光にそんな冷たい態度を取られるだけで金ちゃんから貰ったたこ焼きもあたしの手も凍り付いたような感じ。するとあたしと光のやり取りを見ていたらしい蔵が苦笑いであたしに言った。


「ユイ、財前の耳見た?」

「、耳?」

「おん、あいつピアス忘れるなんやそうあらへんのになぁ」


くすくすと笑う蔵はたこ焼き冷めるから部室で食べてきや、とあたしの背中を押して部室に行くように促した。なんなの?光がピアスを忘れた?そんなわけないじゃん、あの光、が、………。


「、ひかる」


好きなもんばっか貰っとる先輩にいらんもんやりますわ、光の字で書かれたメモには光がいつもつけてるピアスがちょこんとあって。いらんもん、って光の阿呆。あたしが好きで堪らないもんくれちゃって。


「っちゅうかユイって穴開けとったんやっけ?」

「え、」

「いつも髪で隠れとるから知らへんかったわ」

「……あたし、1年の時から開けてるよ?」

「、ほんま?」


蔵の様子を見ると嘘じゃないって分かった。それと同時に光が気付いてくれてた、ちゃんとあたしのこと見てくれてた、それだけで冷えきった心は嘘みたいに暖かくなった。


「あ―、ピアスいらんかったら返品可能っすから」


部活が終わって帰る頃、部室で談笑してる時に光が言った言葉にあたしは即座にずっとつけるから絶対返さないって言ってやった。





(先輩らのもつけるんやろ)(ピアスは耳だからずっと一緒だし)(…変わらへんやろ)(なに、妬いてる?)(別に…、先輩の好きなもん知らへんだけやし)(蔵たちが知ってるから妬いたんでしょ?)(、ちゃうわ阿呆)(顔赤いよ)(寒さのせいや)(さっきから暖かい部室に居るんだけど―?)(…もうえぇから黙っといてください)







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