dream | ナノ



「それでね、」

「うん」

「………」

「どうしたの?」

「…ううん、なんでもない」


また、まただ。また精市は悲しそうに笑う。入院してから精市は心の底から笑ってない。いつも悲しそうに笑う。あたしがどんな話をしても何をしてもあたしが見たい笑顔は見せてくれない。


「嘘。なんか思ったんだろ?」


そんなこと言われても心の底から笑ってない、だなんて言えるわけが無い。きっと精市は困った顔でそうかな、って言うから。それに、言わなくても精市はあたしの言いたいことなんてお見通しのはずだ。昔からそうだった。いつも一緒に居て、だからかあたしが言う前に精市は答えてくれたり行動を起こしてくれたりする。


「………」

「…そんなに悲しい顔しないで」

「っ、」

「俺はそんな顔をしてもらいたいんじゃないよ」

「でも、」

「…分かってる、俺が笑えてないから心配なんだろ?」


ほらまた分かってる、って言う。分かってるならお願いだから笑って、前みたいに笑ってよ。あたしは精市の笑顔が見たい。あたしだけが笑うなんて出来ない。精市の悲しそうな笑顔を見るたびあたしは苦しくて悲しくて辛い。あたしがもし変わってあげれたら、あたしが精市を治してあげれたら、あたしが、あたしが、って自分が無力なことが憎くてたまらない。なんであたしは精市を助けることが出来ないの、なんであたしはこんなに無力なの。そう思うと涙が溢れてきた。精市の方が苦しくて悲しくて辛いのに。あたしが泣いてちゃいけないのに。


「…っ、」

「……、」

「ごめ、あたし、」

「ありがとう」

「…え?」

「俺のために泣いてくれて」

「………うん」


精市はあたしの額にキスをする。そして優しく抱き締めてくれた。久しぶりに触れた精市の身体は前より痩せたように感じた。…ちゃんと食べてる、よね?


「大丈夫だよ、あと少しだから」


そうしたらちゃんと笑えるようになる、そう言って微笑む。でもあたし、知ってる。知ってるよ、精市はテニスが出来なくなるかもしれないってお医者さまが言ってた。それにリハビリが大変だってことも、看護師さんに教えてもらった。精市がたくさん頑張ってるから回復の傾向に向かってはいるけど、これから手術もあるんでしょ?精市の言葉を信じたくないわけじゃないけど、信じるのが恐くなる。信じて、もし叶わなかったら、そう思うと信じるのが恐くなる。


「…そんなにマイナスな事ばかり考えないで、」

「だって、あたし、精市が居なくなったら、んっ」


“生きていけない”そう言う前に精市はそんなことを言わせないと言うようにあたしの唇を塞いだ。そして唇を離すとあたしの頬を伝う涙を舐めとった。


「せ、いち」

「好きだ」

「え、」

「好きだ、好きだ好きだ好きだ!」

「精市、?」


絶対治して戻るから、不安にならないで、精市はそう言っているように思えた。あたしを強く抱き締めるその手が少し震えてるように感じる。ああ、精市も本当は、


大丈夫と呟くよ
(ごめんね、不安にさせて)








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