dream | ナノ
「よし、」
小さくガッツポーズ。今丁度調理実習が終わったところ。今回はお菓子ということであたしはクッキーを作った。他の子はカップケーキとか作ったりしてた。けどカップケーキこの間作ったから今日はいろんな形のクッキー。
「わ、ユイちゃんのクッキー可愛い」
「、」
「ほんとだ―、色綺麗!」
「あ、ありがと」
こう見えてもお菓子はたまに作るからちょっと腕には自信があって誉められると嬉しい。すると覗き込んできた子の1人が聞いてきた。
「ユイちゃんは誰にあげるの―?」
「やっぱ丸井くん?」
「え―、仁王くんでしょ?」
「幸村くんだって!」
あの人よいやこの人だと彼女たちは言い合いを始める。そう、みんな調理実習で作ったものはテニス部の彼らにあげている。料理が上手いって結構ポイント高そうだからみんな必死なんじゃないかな。あたしも毎回聞かれて特に決めてない、なんて誤魔化す。
「お、良い匂い」
「甘ったるい匂いじゃの」
みんながお目当ての人にお菓子を渡しに行く休み時間。やはりうちのクラスの2人も貰ったらしく、手には可愛くラッピングされたお菓子を持っている。
「あ、ユイ!お前何作ったんだよぃ?」
「なんで教えなきゃなんないの」
「え、俺が貰うから」
当たり前だろぃ、なんて言うブン太はにこにこしてる。確かに毎回あんたに持っていかれますけど!…まぁ、あたしも他の子のようにブン太に惚れてる身だから持っていかれても文句は言えないけど、さ。
「誰もあんたにあげるなんて言ってないじゃん」
「え―、」
「ブンちゃんじゃなくて俺じゃもんのぅ?」
「え、まじかよ」
ブン太の横から仁王が面白そうに問い掛けてくる。うわ、こいつ絶対楽しんでる…。何かなんて分からないけどこの顔は楽しんでる顔だ…!
「のぅ?如月」
「え、あ、うん」
「は、まじで」
なんか勢いに任せて頷いたあたしは馬鹿じゃないの。好きなのは仁王じゃなくてブン太でしょ、あ―、もう本当にあたし可愛くない!なんて頭の中で自分を怒ってるとブン太が拗ねたように口を尖らせてちぇっ、と言った。
「俺、ユイの作ったお菓子いちばん好きなのにな―」
「…は」
「ほ―」
思ってもみなかった発言に間抜けな声を出すあたしとやっぱりかとでもいう顔をして適当な返事をする仁王。え、なにそれ、初めて聞いたんだけど。いつももう少し甘い方が良いだのなんだの文句つけてくるのに。悪いものでも食べて変なこと言うようになっちゃったの?
「なら仕方ないのぅ」
「こいつの作るもんは俺のだかんな仁王」
「分かった分かった」
「え、ちょ、」
「わ、クッキーじゃん!美味そ―!」
あたしの声も聞かずにブン太はあたしからクッキーを取ると食べ始める。ブン太は満足そうに笑い美味い!って言うから恥ずかしくなって視線を逸らす。
「今日は百点満点な!」
「、満点?」
本当に今日のブン太はどっかおかしいんじゃないの。人の作った、ましてやあたしの作ったお菓子がいちばん好きとかいつもは文句言うのに今日は百点満点とか言っちゃって。なんなの?
「おぅ、満点!」
「今までそんなこと、」
「まだ俺好みになりきってなかったからに決まってんだろぃ」
そんなの当たり前じゃん、ブン太っていっつもお菓子食べてるけど何点とかいちいち点数つけてないもん。だから特に気にせず作ってたし。とブン太はあたしが言いたいことが分かったのか。
「馬鹿、お前のは特別だから点数つけんだよ」
「え、」
…馬鹿ブン太。そういう好きな人からの特別扱いって期待しちゃうじゃん。調子に乗っちゃうから変に期待させないでほしいのに。
「好きな奴のお菓子は満点じゃなきゃ納得いかねぇだろぃ」
「………、」
「ユイのはそうでなくても美味いけどやっぱストライクゾーンがいちばんじゃん?」
「…ば―か」
「は、お前せっかく」
「そういうのは早く言ってよね!言ってくれたらもっと良いの作れたのに!」
するとブン太は目を丸くして驚いた。それからちょっとだけ頬を赤く染めてにかっと笑った。
「じゃあ今度はケーキな!」
…特別って言われて嬉しかったけどなんかこれじゃまるでブン太専属シェフという名の奴隷じゃないの。
飛び切りの味付けは愛情で
(な、今度一緒にケーキ作ろうぜ)(え?)(お前と作ったら絶対美味い!)(絶対やだ)(なんでだよぃ)(集中出来ない)(とか言って恥ずかしいんだろぃ)(なっ、ち、違うし!)(素直じゃね―な)(う、うるさい!)