dream | ナノ
「あ、此処はこうした方がえぇよ」
「え、こう?」
「そうそう!」
…なんで、なんでこんなことになってんねん。
「ユイちゃんのエプロン姿かわえぇなぁ」
「ユイ先輩は俺のッスから」
「かわえぇって言うただけやんか」
「手出したらシバくんで」
ほんまわけわからん。今日はバレンタイン。ユイ先輩が出来たてのもん(何を作るのかはよう分からへんけど)を食べさせたい、って言うたから外に行かずに先輩ん家で過ごすことになった。…まではえぇねん。先輩が料理を始めてから途中でインターホンが鳴った。宅配便とかそういうんかと思って先輩の代わりにドアを開けると
『よっ』
『………』
『えぇ匂いするなぁ』
『ユイちゃん料理中なん?』
『…なんで来たんすか』
『お前だけ彼女居って、しかも2人で家で過ごすなんや許せへんやん?』
『部長らも彼女作ればえぇやないですか』
『簡単やん、みたいな顔されるとムカつくなぁ』
何故か先輩らが居った。俺だけ彼女居るんがそない羨ましいんすかって言うたろかな思ったけど部活のメニューが増やされるんはごめんやからやめといた(部長居らんかったら言うてたけどな)。せやけどわざわざこない人数で邪魔しに来おへんでもえぇやろ。さっさと帰らせようとしたらユイ先輩がひょいと顔を出した。あー、なんでそのタイミングで出てくんねん。ユイ先輩は部長らを見るといらっしゃい、なんや言うて家に入れてしまった。部長らは満足気にリビングへ足を進める。…ここまできたら直ぐには帰らへんやろ。俺は諦めることにした。
「やったぁ!」
「、」
突然大声をあげるから何かと思えば目に入ったのは少し大きめのチョコタルト。
「美味そうやん!」
「えへへ、小春ちゃんのおかげ!」
「そないなことあらへんよ、ユイちゃんが上手いんやって!」
確かにそれは形も綺麗でごっつ美味そうや。…けどこの展開は明らかにみんなで食べようっちゅう雰囲気や。その証拠にタルトは人数分に分けられそれぞれに渡された。
「ユイちゃん料理上手いんやなぁ」
「ご馳走さん、美味かったで」
「喜んでもらえて良かった」
タルトが分けられてから先輩らはゲームしたりお笑いのDVDを見たり普通に遊んどった。夕方になるとそろそろ帰ろうかと支度を始めた。いつもより少し早めに帰るんやなー、なんてぼんやり思っとると部長が帰り際、俺に耳打ちをした。
「こない遅くまで邪魔してもうて堪忍な、後は2人でゆっくりしぃ」
「………、」
そないなこと言うなら来ないでほしかったんやけど、…まぁユイ先輩が喜んどったからそこは許したろ。部長らが帰るとユイ先輩はぱたぱたとリビングに戻った。その後を追うと先輩の手には綺麗に出来上がったトリュフがあった。…いつの間に作っとったんやろ。
「光、はい」
「、」
「あたしからの本命チョコ!」
「…ど、ども」
「嬉しくない?善哉のが良い?」
「いや、「一応餡子と白玉あるから善哉でも良いよ?」
先輩はトリュフをテーブルに置くと冷蔵庫から餡子と白玉を出した。俺に選ばせるつもりなんやろかこの人。その予想は合っているらしくお好きなほうをどうぞと言わんばかりにそれらをトリュフの横に置いた。
「本命チョコを貰わん彼氏が何処に居んねん」
「、」
「善哉はいつでも食えるから今日はトリュフ貰うわ」
「う、うん!」
俺がどっちも、と言うと思っていたのか先輩は一瞬目を丸くして驚いたけどすぐにっこりと笑顔になった。トリュフに手を伸ばすとユイ先輩はちょっと待ってと静止をかけた。
「?」
「ちょ、ちょっと、だけ、目瞑って?」
「は?」
「ちょっと、だけ、で良いから、ね?」
なんやまだサプライズでもあるんかとユイ先輩を見るとその頬は若干赤く染まっていてそない恥ずかしがるようなもんなんかと俺は首を傾げながらも目を瞑った。瞑ってから全然物音がせえへんし先輩も喋らへん。どないしたんやろと思って先輩の名を呼ぼうと開けた唇に柔らかいものが重なる。そんですぐ後に甘い味が広がった。
「……っ!」
「ん、…っは」
「せんぱ、」
「は、恥ずかしい…っ!!」
「、あ」
まさか先輩が口移しでトリュフを食べさせてくれるなんや思って無くて、けど恥ずかしいと顔を真赤にしてその場にしゃがみこんだ先輩はきっと誰かに言われてやったんやろうな。…誰が言うたかは分からへんけど、今年のバレンタインは最高のバレンタインになったわ。
融けてしまうほどに
(熱くて甘いバレンタイン)
(ホワイトデーは俺が口移ししたるわ)(えっ)(なんや、嫌なん?)(そ、そういうわけじゃないけど…)(けど?)(うぅ…、蔵と小春ちゃんの言う通りだ…)(は?)(あたしが口移しでチョコ食べさせたらホワイトデーに光も口移ししそうだ、って言ってて…)(……(明日会ったらシバいたろ))