dream | ナノ



ああもう煩いなぁ。今日は日曜日、なのに平日並み…いやそれ以上の人だかりが出来ていた。まぁ今日はバレンタインだけど、まさかこんなに人が来るなんて思いもしなかった。…っていうか蔵たちも多分予想してなかったと思う。きっと四天宝寺以外の生徒も今日は来ているんじゃないだろうか。平日だと蔵たちに会えるかすら怪しいし、休日は校内でテニスコート以外に蔵たちが行く場所は無いに等しいから。女の子たちからチョコを貰う側の蔵たちはさっきから囲まれてるし部室前にも誰宛てかは見てないけど大量のチョコが置いてある。本当に大変そうだ。でも蔵たちにあげる子はまだ居場所が想像付くから良い方だと思う。…もっと大変なのはあいつにチョコをあげたいと思っている女の子たちだ。


『屋上居るけん』


あたしはそんな女の子たちにばれないようにメールに書いてある通りの場所に向かった。やっぱり来てたんだ。いつも居る裏山に居なかったのは女の子たちにばれない様にと千歳なりに考えたんだと思う。千歳はついこの間、女の子たちからのチョコはなるべく受け取りたくないと零していた。あたしが何故かと問えば気持ちに応えれないしお返しも出来ないから、と答えた。その言葉にはきっといろんな意味がこもっているんだろうけど、とにかく千歳は誰かと付き合う気は無いみたいだった。だからもしチョコを貰ったとしても変に期待をさせたくないからお返しはしないんだろう。でも貰ってしまったら1ヶ月の間は期待をさせてしまうから、貰わないのが一番だと千歳は考えたような気がする。そうじゃなかったら受け取りそうだし。


「千歳、」

「ユイ!」


でも、そしたらなんで千歳はあたしに自分の居場所を知らせたのだろう。千歳の話を聞いたからチョコは持ってないけれどあたしだって千歳に恋する女の子の1人なんだから、こんな2人だけなんて期待したら駄目と思っても期待しちゃうじゃん。千歳の阿呆、なんて悪態を吐きながら千歳を見るとにこにこ…というよりはでれでれに近い表情をしていた。


「……何?」

「んー」

「さっきから顔緩みっぱなしだけど良いことあったの?」


直球で聞けば千歳は表情を変えずに真っ最中、なんて訳の分からないことを言った。なに、真っ最中って。


「ユイは逆チョコって知っとると?」

「………、」

「知らんとや?」

「知ってるけど、」


待って、何この流れ。さっきまで期待したら駄目って思ってたけど時と場合と場所とを考えたら期待せざるを得ないというか期待しても良いよって言われてる気がするんだけど。だって千歳が、逆チョコ知ってるかなんて聞くって事はそういうこともあり得るわけじゃない?


「ユイは逆チョコ貰ったら嬉しか?」

「、そりゃ、好きな人になら嬉しい、よ…?」

「貰ったことは?」

「…無い、けど」


それなら、と千歳はあたしに小さい紙袋を差し出した。それが何を意味するのか、突然の事で頭が回らないあたしに千歳はただ一言、


「逆チョコ、ばい」


と変わらない笑顔で言った。一方あたしはというと未だ頭が混乱してて、でも顔は真赤になって熱を持ってるんだな、って分かる。千歳は恥ずかしがる様子も何もなくただあたしにどげんしたと?と聞いてくるだけだ。


「ほ、本命…?」

「勿論ばい」

「………、」

「、ユイ!?い、いらんかったと?」

「…え、あ、」


珍しく千歳が慌ててる、なんて思ってたあたしの頬を何かが伝ってそのままぽた、と落ちた。もしかしなくても、あたし泣いてる…?


「ユイ、」

「ちと、」

「嫌やったと?」

「ち、ちがっ、う、嬉しくてだから…!」


眉を物凄い下げてこのまま放っておいたら泣くんじゃないかってくらいの顔であたしを見るから慌てて否定すると千歳の顔は一瞬にしてぱぁっと明るくなって、会う前よりすっごいでれでれしちゃってすごい嬉しいんだろうな…って思ったんだけど凄い恥ずかしい。千歳はそのままぎゅっとあたしを抱きしめる。


「千歳…?」

「ユイ、」

「な、なに?」


千歳はいつもより少し低めの声で、あたしの耳元で囁いた。


「好いとうよ」


たった一言だけど、でも凄い嬉しくてまた涙は溢れた。




(逆チョコから始まる関係)


(あ、あたしも好き)(良かったばい)(…なんであたしに女の子からのチョコは受け取りたくないって言ったの?)(ん?)(言わなかったらあたしがチョコあげてたかもしれないじゃん)(…前にユイが言うとったばい、告白はするよりされたい、って)(え…、あ、そういえば)







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