dream | ナノ
『あれ、光じゃん』
『…先輩』
『光もサボり?』
『そっすけど』
『あたしもサボり!ね、隣良い?』
最初に一緒にサボったのは進級して間もない頃だった。俺も先輩も前から屋上でサボってたのに全然会わなくてその日に偶然サボる時間が一緒になったみたいやった。その日から俺と先輩は時々一緒にサボるようになった。元々俺と先輩は同じテニス部で更に一緒に居る時間が増えて、俺は嬉しかった。先輩はいつも心の底から楽しそうに笑って、俺はその幸せそうな笑顔が好きだった。…まぁ、性格とかも勿論好きやねんけどな。それに一緒にサボる時、たまにやけど先輩は俺だけに悩みを打ち明けてくれたりする。他の誰でもなく、俺を頼ってくれる。そういうのもあるから、俺は一緒にサボる時間がいつも楽しみだった。
「…先輩、遅いわ」
今日も一緒に午後からサボることになっとった。せやから昼休みから屋上に居るのに先輩は授業開始のチャイムが鳴ってもなかなか来ない。どないしたんやろ。そう思ってフェンスに寄りかかって下を見る。するとテニスコートの近くで先輩と誰か知らん男が2人で話しとるのが目に入った。
「誰やねんアイツ」
先輩は俺とサボんねんから邪魔すんなや、なんて自分でもガキやなって思ったけど待たされとる俺は苛々しとった。そのまま見てると遠いからはっきりとは見えへんけど男は恥ずかしそうに何かを先輩に伝えとるみたいで、先輩は戸惑ってるみたいに見えた。なんやねん、あの男、先輩に告白でもしたんか。けど先輩はその男が話終わってからべらべらと何かを話し始めた。と思えばすたすたと男の横を通り抜けた。よく分からないまま見てると携帯が震えた。
「…もしもし」
「ひかる、」
「なんすか」
「遅くてごめんね、…今から行くから」
「えぇんすか、告白されとったみたいやけど」
先輩は少し苛立ってるみたいで、俺が告白のことを聞くと黙ってしまった。
「…別に良いもん、光のこと侮辱するようなのと付き合いたくないから」
「え?」
「あたしが光とサボるの知ってて、財前のどこがえぇねんとか言われた」
そう言った先輩は本気で怒ってるらしく、あんな最低な奴と誰が付き合うか、なんて受話器の向こうで呟いた。あかん、嬉しいわ。
「だからね、あたしは光とサボるのにそれを邪魔したうえに光を侮辱するなんてほんとありえない、って言ってやったの」
「、」
「好きな人の大切な人を侮辱するとか最低、あたしそういうのと付き合う気ないから、って言ってきた」
先輩って普段人にはっきり言うことは少ないしここまで怒ることもない。せやから俺は嬉しかった。それに何気に俺のことを大切って言うてくれたし。
「…まぁ、そんな感じで無駄に時間掛かっちゃったんだけど」
「先輩のせいやないから怒らへんし。…その男に会うたら睨むかもしれへんけど」
「ふふ、ありがと」
光のそういうとこ好きだな、なんて先輩はさっきとは違う、優しい声色で言うとじゃあもう少し待っててねと電話を切った。
いつもの場所で君を待つ
(先輩来たら告白したろかな)
先輩が来るまで、あと5分。