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突然ぎゅう、と手を握られた。


「あの、白石、くん?」


どきどきと加速する鼓動が聞こえていそうでこわい。それにしてもなぜ彼はわたしの手を唐突に握ったのだろう。いつものように他愛ない話で盛り上がって、それでいつものようにまたねと声を掛けただけで、なにも変わったことなんてなかった。はずなのに。


「………」

「白石く、ん、部活、じゃないの?」

「………」


問い掛けても彼は黙ってわたしの手を握ったまま離さない。わたしは大した用事も無いから時間が遅くなろうと構わないのだけど、目の前の彼はそうもいかない。大切な部活があるのだ。それも彼は部長の立場で、完璧主義者だと、聖書だと謳われているのだ。そう簡単に遅刻など出来るはずがない、他愛ない話で盛り上がったからなんて理由で遅刻をしていいわけがない。ただえさえ委員会があって練習の時間は削られてしまっているのに。本人もそれは分かっているはずだ。だからいつもこの委員会が終わったあとの少ししかないこの時間がわたしは楽しみで、こうして彼が部活に行くまで一緒に話しているのだ。そして彼もまた毎回きっかり同じ時間だけわたしと話してくれて、それが、いまこうしているうちにもいつもの時間よりも長引いていて、戸惑う。そして誰にも言わずに仕舞っている恋心は、期待してしまう。


「しら、」

「好きや」

「、え」


そうして言われたそれはいつもの白石くんからは想像もつかないほどに自信がなさげに紡がれた。じゃない、いま、なんて?すき?誰が、誰を?


「ずっと、ユイちゃんのこと、好きやった」


わたしを真っ直ぐと射抜くかのごとく見つめるその綺麗な目から、恥ずかしいのに視線をそらせない。どきどきどきどき、鼓動はただただその速度をあげていく。なにか言わなきゃ、と口を薄く開いたときに彼が先に言葉を紡いだ。


「………堪忍、いきなり言われても困るやんな」

「っ、」

「けど俺本気やから」

「白石く、」

「返事は今やなくて、…少しだけでええから考えてくれへんか」


そう言っていつの間にか離れた手でぽん、と頭を優しく撫でられる。困ったように笑って、それからいつものように彼は教室を出ていこうとする。それを、今度はわたしが阻止する。


「え、」

「…わ、わた、わたしも、すき」

「!」

「だから、あの、困ることなんて、なにもない、よ」


震える声で、彼の制服の裾を握る手は力み、それでもその綺麗な目を見て言う。白石くんはびっくりして、それから不意に顔ごと逸らした。あ、あれ?


「白石くん…?」

「あかん、ものごっつ嬉しい…」

「…、」

「おおきに」


照れた顔で笑いかける白石くん。おおきに、なんて。お礼を言うのはわたしのほうだ。こんなどこにでも居るようなわたしを好きになってくれて、ありがとうと言いたい。でも実際に言葉にするのはなんだか恥ずかしくてそれはこっちの台詞だよとだけ返した。そうしたら白石くんは今度は嬉しそうに笑ったから、わたしもにこりと笑い返した。


「…少しだけ、抱き締めてもええ?」

「、うん」

「…なあユイちゃん」

「?」

「部活終わるまで待てる?」

「え?」

「せっかくやし、その、一緒に帰りたいんやけど」

「…!」

「あかん?」

「だ、大丈夫!待てるよ!」

「ほんま?!」


そうして彼は更に嬉しさを増した声音でおおきに!と言うのだった。





(あとな、)(うん)(すぐやなくてええけど、俺のこと…名前で呼んでくれへん?)(えっ)(せっかく付き合うことになったんやし…)(えと、その、が、頑張ります…!)







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