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周りの女の子たちは皆、あたしと蔵が幼馴染みであることを知ると羨ましいと言う。どうして幼馴染みが羨ましいのだろう、あたしと蔵が友達以上恋人未満というような言葉で表せるくらい仲が良いならまだしもあたしと蔵は幼馴染みという言葉を使わなかったらただの同級生という言葉で簡単に表せる程度の仲だ。それなのに羨ましいと羨望の眼差しを向ける女の子たちの気持ちがあたしには分からない。確かにあたしは他の子より付き合いが長いから知っていることもそれなりにあるし何も言わずともお互いを名前で呼びあえるけど、そんなことは正直大して自慢にも何にもならなければ女の子たちに羨望の眼差しを向けられるようなことでもない。あたしよりも羨ましがられるべきはそう、例えば。


「白石くん、明日の部長会議って何時からやっけ?」

「明日の会議は昼休み始まってすぐ会議室に集合やで」

「すぐに会議室、やね。おおきに!」


女テニの部長さんとか。女テニと男テニは同じテニス部だからメニューの相談や色々な話が出来るだろう。だからそれなりに仲が良いし何より女テニの部長さんは可愛くてモテるみたいから、もしかしたら、蔵も好意を寄せているかもしれない。っていうかあの子は確実に蔵に好印象を与えている。だって蔵があんなに穏やかな笑顔を浮かべる相手なんて、ずっと見てきたけどそう居ない。


「あ、部長の幼馴染みの人や」

「、え」


蔵と女テニの部長さんが楽しそうに話しているのを遠目で見ていると男の子に声をかけられた。黒いツンツンした髪にカラフルなピアスをたくさんつけた彼は確か蔵の後輩、2年唯一のレギュラーで天才という財前くん。


「ど、どうも…」

「こんなとこで突っ立って何してはるんですか」

「え、っと…」


蔵と女テニの部長さんを見てました、なんて口が裂けても言えない。淡々としている財前くんはあたしが先程まで見ていた方をむいてああ、と呟いた。


「妬いてたんすか」

「そ、そんなんじゃ…」

「まぁでも安心してええですよ」

「は?」

「部長が好きなん、あの人やないんで」

「………、」


何をどう安心しろと言うんだろう。それを聞く前に財前くんは用事があるからと立ち去ってしまった。っていうか彼は一体何がしたかったのだろう。首を傾げると前方からすたすたと歩いてくる人。それは財前くんとの話の中心であったともいえる蔵だった。


「…ユイ、」

「蔵、久し「財前と仲良いん?」

「…え?」


いつもならあたしが久し振りって言ったら蔵も久し振りって言って一言二言交わして終わり。のはずなのに今日の蔵は不機嫌そうに見えた。どうしたんだろう。あたしに心当たりは全く無い。そもそも言葉を交わすのも久し振りなのだから。


「自分、図書委員ちゃうやろ?」

「く、蔵?」

「なんで財前と仲良いん」

「ま、待って、あたし財前くんと話したの今日初めて!」


よく分からないけどどうやらあたしが財前くんと仲が良いことに不満があるらしい。しかしそれ以前にあたしは財前くんと会話をしたのはさっきのが初めてだからその不満は勘違いというものに当て嵌まる。あたしの言葉を聞くと蔵は黙り込み、少しの沈黙が流れたあとにため息を1つこぼした。


「…堪忍」

「…蔵、なんかあったの?さっきから機嫌悪そう」

「……別に、なんも」


おかしい。蔵は否定するけど明らかにおかしい。あたしの知ってる蔵だったら本当に何もないなら爽やかな笑顔を浮かべて即答するのに。それに心なしか顔もほんのり赤い気がする。もしかして熱でもあるのかな、


「!」

「……え、」


そう思って蔵の額に手を伸ばしたら思い切り後退りされた。…嫌、だったのかな。まぁ、大して仲良しなわけでもない、もんね。


「……あ、」

「………」

「ユイ堪忍、今のは「ごめんね」

「…え?」

「いや、馴れ馴れしいよね、うん」

「何言うて、」

「でも熱あるんだったら無理したらだめだよ」

「、」


泣いてしまいそうになるのを堪えて蔵にばいばいと手を振る。そして踵を返してそこから逃げようとした、けれどそれは蔵があたしの腕を掴んだことによって阻止された。


「すまん」

「なに、が、」

「嫌なわけやのうて、なんか、…なんやろ、と、とにかくちゃうねん!」


蔵がちゃんとした説明が出来ずに慌てている。こんな光景何時ぶりだろう。


「いや、なんか、ユイに触られる思ったら、どきどきしてもうて、」


………え?それって、なに、期待しても良いの?





(…蔵、期待しちゃうよ)(別にええよ)(え……、)(…ユイ)(な、なに)(むっちゃ好き)(!)







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