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『俺、先輩が好き』


彼は彼女に向かってぽつりと呟いた。いつもと何も変わらないはずの1日の中で、彼の告白だけが非日常だった。彼女は突然のことに顔を赤くすることしか出来ず、彼もまた顔を赤くしてそのまま彼女の横を通り抜けて帰路についた。


「…ということがあって」


翌日、彼と彼女は朝練で顔を合わせても挨拶くらいしか交わさず空気は気まずかった。それに気づいた部活仲間で彼女のクラスメイトである桃城は昼休み、購買で買った大量のパンを片手に彼女に聞いた。彼女は昨日の出来事を一通り話すと小さくため息を吐いた。


「桃城、あたしどうすればいいのかな」

「どうするも何も如月も越前のこと好きなんだろ?」

「…う、ん。それはそうなんだけど」


桃城は首を傾げた。どうして越前が好きなのに自分も好きだと如月が言えないのか。越前にしてみれば如月が何も言ってこないことは自分のことをそういう対象に見て居ないということと同じだろう。


「…もしかして、緊張してんのか?」

「………」

「お前でも緊張すんだなー、初めて知ったぜ」

「あ、あたしだって人間なんだから緊張するに決まってるでしょ!」


桃城がからかうように言えば如月は顔を赤くして怒る。と桃城は廊下を歩く越前を視界にとらえた。


「あ、越前」

「え、えっ!」

「お前のこと探しに来たんじゃねーの?おーい越前ー!」


桃城ばか!と如月が慌てるのも気にせず桃城は越前を呼ぶ。越前は自分を呼ぶ声の方を見ると顔を赤くして慌てる如月を見付け、小さく笑った。


「なんすか桃先輩」

「如月がお前に話だってよ」

「、」

「ちょ、ちょっとまだ心の準備出来てない!」

「ほら、時間ねぇんだぞ」

「わ、わっ」


未だに越前と顔を合わせようとしない如月に痺れを切らした桃城はその腕を引っ張り越前の前へ引きずるように連れていく。


「あ、あの、」

「ユイ先輩、中庭行こう」

「…へ?」

「ここだと目立つし、桃先輩がにやにやしながら見てるとこでこういう話したくないから」

「う、うん…」


越前は如月の手を少し強く握るとすたすたと歩きだした。中庭は昼休みにも関わらず人影が1つも無く、グラウンドでサッカーなどをする生徒の声が遠くに聞こえる。


「ユイ先輩、話って昨日のこと?」


そう言った越前は少しだけ眉が下がっていて、そんな悲しそうな顔に如月は胸がきゅうと締め付けられながらもこくんと頷いた。


「…あ、あのね、…その、」

「先輩、…無理しなくていいから」

「え、」

「…さっきの、なんとなく桃先輩が勝手に言ったって分かってる」

「………」

「昨日の今日だから気持ちの整理がついてなくても仕方ない。だから、整理がついてからでいい」


如月はそう言って踵を返した越前の腕を掴んだ。


「?」

「い、言うから、待って…」

「無理しなくていいって」

「違うの、緊張してるだけだから、」

「…ん。じゃあ落ち着くまで待つ」


そう言うと如月は数回深呼吸をしたあと、越前の目をまっすぐ見てはっきりと告げた。


「リョーマが、好き」

「、」

「だから、その、…これからも、よろしくね」


顔を真っ赤にした如月の視線は恥ずかしさから段々と下がっていき、しまいには俯いてしまったが、越前はそんな如月を愛しく感じて微笑んだ。


メルト、メルト、メルト
(幸せに溶けて溺れていく)








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