dream | ナノ



あたしの恋は叶いそうにないらしい。


「たこ焼きたこ焼きー!」


何も無い休日に1人でふらふらと雑貨屋を巡っていると聞き覚えのある声がした。あたしの記憶が正しければテニス部の金太郎くんで、その後に続いたそないに騒いだら周りの人に迷惑やろ、という声は部長の白石くんの声。金太郎くんと白石くんが一緒に居るっていうことはもしかしたらレギュラーで一緒に遊んでいる最中なのだろうか。そうだとしたらあたしが密かに想いを寄せているクラスメイトのユウジも居るかもしれない。そう思ったあたしは声のするほうへ足を進めた。


「、」

「あ、ユイちゃん」


目立つジャージは間違いなく白石くんたちテニス部だった。珍しく千歳くんやオサムちゃんも居て、声を掛けるのに躊躇ったけれど白石くんがあたしに気付いて手を振ったので手を振り返した。そして白石くんの言葉であたしに気付いたみんなが一斉にこちらを見る。その時だった。


「あっ」

「え」

「………、」


一緒に1つのたこ焼きを食べようとしていたらしい小春とユウジがバランスを崩し、そのたこ焼きは金太郎くんの口の中へ。そして小春とユウジはバランスを崩したはずみでキスをした。腕で上手く口元が隠れているものの傍から見ればキスしていることなんて丸分かり。金太郎くんはたこ焼きを食べれて満足した表情をしているけどその一部始終を見ていたみんなは苦笑い。あたしは呆然と立ち尽くしてしまった。


「………」


少しの沈黙が流れて、気まずくなって。あたしはどうしていいのかわからないし、それ以前に好きな人があたしじゃない人とキスするのを見て泣きそうになったから、何も言わずに走った。その時に誰かがあたしを呼んだ気がしたけど振り向けるほどの余裕なんて無かった。





「ユイー?」


それから家に帰ってただいまの一言も言わずに自分の部屋で気付かれないように泣いた。でも気付いたら泣き疲れたのか眠っていて、お母さんがあたしを呼ぶ声で目が覚めた。


「ユイ、一氏くん来てるわよー?」

「………は、」


一氏くん、その単語であたしの頭は一気に覚醒して慌てて鏡を見て変じゃないかとか目が腫れてないかとか確認して急いで階段を掛け下りる。玄関にはジャージのままのユウジが居た。


「………、」


どうしたの、とか聞きたかったけどさっきのことがフラッシュバックしてまた泣きそうになって俯いてしまった。ユウジは少し黙ったあと、外で話そうとあたしの腕を引く。お母さんに外に行ってくるとだけ伝えてあたしたちは近くの公園に向かった。


「…なんで泣いたん」

「べ、別に泣いてなんか、」

「少しだけやけど目腫れとる」

「………、」


公園のベンチに2人で座って、すぐにユウジがあたしに問い掛けた。腫れてるって言ってもほんの少し、言われたら気付くくらいだろうと思ってたのに、ユウジはやっぱり気付いてしまったらしい。


「勘違いしとるやろうけど俺と小春はダブルス組んどるだけでなんもあらへんからな?」

「キスしてたくせに何言ってんの」

「あれ事故やし」

「………」

「っちゅうか俺が好きなんユイやし」


さらりと言われた告白に思わずフリーズしてしまった。だって、あのユウジがあたしを好きだって言うなんて、夢なのこれ?夢だったら嫌だけど、でも凄い嬉しい。


「あ、言っとくけど冗談ちゃうから」

「え、」

「冗談でこんなん言うほど軽いやつやないし」

「………」

「おい、聞いとんのか……って何泣いとんねん」


嬉し泣き、とそう言えばあたしの気持ちを察したのかユウジは今まで見たことないくらい優しく笑ってあたしの頭を撫でた。





(っていうかなんで来たの)(は?)(わざわざうちに来ることなかったじゃん)(なんかお前泣きそうやったし、よう分からんけど白石に行け言われた)(……へぇ(あたしが泣いたことに気付いたのにそこは分かんないんだ…))








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