dream | ナノ



見方によっては近親相姦





「弦一郎くん弦一郎くん」


ひょっこりと少し開いたままの襖の隙間から顔を出す。念のため小声で話しかける。けどどうやらその心配は要らなかったらしい。


「……ん?」


これはまた…、明日は吹雪かそれとも槍が降るか、まあなんにせよ珍しいこともあるものだ。と彼のその姿を見て驚いた。


「弦一郎くーん」

「………」


はて、テニス部の彼らが知ったらどう騒ぐのだろう。弦一郎くんはすやすやと静かに寝息をたてていた。


「………」

「………」


静かな和室にすやすやと規則正しい寝息だけが響く。ううむ、弦一郎くんのことは全部とは言えないけれど双子であるしそれなりに周りよりは知っているはずなのだけれど、記憶をたどっても今日みたいなうたた寝は初めてだ。稀に、本当に稀にうたた寝をしているのは見たことがあるのだけれどわたしが小声で呼び掛ければすぐにハッとするのに。疲れが取れきってないのだろうか。少し心配になる。とにもかくにも簡単には起きなさそうだ。とりあえず少しでも身体を冷やさないように自分の羽織っていた長めのカーディガンを彼にそっとかける。そうだ、なにか掛けるものを持ってこよう。そろりそろりと音を立てないように部屋を出た。


「…あれ、起きたの弦一郎くん」


そして数分後、途中で兄さんに声を掛けられながらも大きな音を立てないように布団を持って戻ってきたら弦一郎くんは起きていた。丁寧にわたしのカーディガンを畳んでくれている。


「やはりユイだったか」

「そりゃそんなの着るの家族でわたしくらいでしょ」

「すまない、わざわざ布団まで…」

「わたしは構わないけれど、大丈夫?疲れてるなら少し休んだ方がいいよ?」


布団を適当に置いて弦一郎くんが綺麗に畳んでくれたそれを受け取る。


「いや、大丈夫だ。すまなかったな」

「ううん、でもうたた寝は良くないよ」

「そうだな…、俺も修行が足りん」

「むしろ修行をしすぎなんだよ」


そう言って修行に励もうと立ったのであろう彼の手をとり引き止める。きゅ、と力を込めれば彼はわたしに向き合ってくれた。


「疲れが残ったまま修行したって本末転倒だよ、せっかくつけられる力もつかなくなっちゃう」

「………」

「今日は修行はしちゃだめ」

「なっ、」

「だめ」

「しかし、」

「だめなものはだめ」


弦一郎くんはわたしが強く出ると狼狽える。めっ!と更に一押しすれば弦一郎くんは困惑を浮かべたままうむ、と小さく頷いた。こうでもしてわたしが強制的にブレーキをかけてあげなければ弦一郎くんは微かではあるけれど速度オーバーをしてしまう。もちろんそんなこと滅多にない。だからこそわたしが強く出れば彼はわたしの押しをはね除けることが出来ないから、従ってくれるのだ。そのおかげでわたしは弦一郎くんが気付いてない疲れを癒すことが出来る。それは言わばわたしだけの、役目。双子であるわたししか気づけない、出来ないこと。蓮二くんだって気付いてないことも、わたしは分かる。それはわたしの特技であり、自慢のことだ。


「ということでせっかく布団もあるし、たまには一緒に寝ようよ」

「!?」

「…いや?」

「あ、当たり前だろう!」

「でも最近弦一郎くん修行とか部活ばかりだったから…、たまにはって思ったんだけど…、そっか、そうだよね…」

「、ユイ…」


しゅん、とオーバーに見せてみれば弦一郎くんは慌てる。弦一郎くんはわたしが悲しそうにだとか寂しそうな表情を見せると必ず慌てる。本人曰くわたしがそういう表情を普段はなかなか見せないから、どうしたものかとパニックになってしまうらしい。


「…し、仕方ない」


こほん、と小さく咳払いをして弦一郎くんが言った。そして先程わたしが適当に置いたそれを取る。


「弦一郎くん」

「…今日だけだぞ」

「!」


ほんのり照れ臭そうに頬を火照らせて、弦一郎くんが言うもんだから嬉しくなる。リアクションはオーバーだったけれど最近寂しかったのは本当なのだ。


「えへへ、弦一郎くんとお昼寝!」

「そ、そんなに嬉しいのか」

「うん!」


ふたりで布団にくるまる。ぎゅ、と抱きつけば頭を優しく撫でてもらえた。兄さんと寝たりもするけど、やっぱり弦一郎くんと一緒が一番好きだなあ。












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