dream | ナノ



見方によっては近親相姦





「景吾」

「アーン?」

「はいどーぞ」


ばさばさばさ、となんとも上品な柄をした手紙がテーブルに山積みになる。これらの宛て先である目の前の彼は露骨に嫌そうな顔をした。


「なんでまた貰ってくんだよ…」


めんどくせえ、とため息をつくけどわたしだって貰いたくはない。なにが悲しくて双子の兄への手紙を袋一杯に入れて持って帰らなくてはならないのだ。迷惑も良いところである。


「貰った、じゃなくて押し付けられた、ね」

「どっちにしろ持って帰ってきたことには変わりねぇだろ」

「自主的か強制的かで大分気持ちが変わると思うのだけど」


わたしの言葉になにも返さずはあ、と小さくため息を溢しながらそれらを手に取った。身内自慢になるけれど、景吾はモテる。いやもうその辺のアイドルよりもモテる。まあなんでもこなしちゃうしこのルックスだし頷けるけど。で、景吾が高嶺の花でラブレターすら自分で渡せない(いや渡しに行っても断られるんだけど)乙女たちはわたしに渡すように、とわたしが断ろうがなんだろうがお構い無しにそれらを押し付けてくる。その時ばかりは友達だろうがなんだろうが構わず嫌悪感を覚える。景吾もわたしもぶっちゃけ鬱陶しく感じている。一通や二通なら良い。ただ景吾は先程も述べたようにモテる。尋常じゃなく。それはつまりラブレターの数も比例して、うんざりする量になっているということだ。


「おい」

「ん?」

「これお前宛だろ」

「え」


ほら、と幾つかの手紙を渡される。確かにそこに書いてあった名前はわたしのものだった。誰だよどさくさに紛れて入れたひと。めんどくさい…。


「なんだかんだお前女からも好かれてるだろ」

「初耳なんだけど」

「前も紛れてたがな、お前宛の」

「なんで捨てたの」

「大切にとっておくつもりだったのか?」

「いや、結局捨てることになるけど」

「ならいつ捨てようがお構い無しだろ」


というか捨てるという時点で申し訳ない。いやでも相手の子たちはみんなそうなると分かっている。にも関わらずこうして手紙を押し付け……、渡してくるのだから健気だとは思う。ってそうじゃない、わたしが女の子からモテてるだって?


「アーン?お前気づいてなかったのか」

「いやいや気づくわけないでしょ」

「ユイさまユイさまって慕われてんだろ」

「景吾が跡部様跡部様言われてるからって、そのノリで呼んでみてただけなんじゃないの」

「そんなわけねぇだろ」


お前は馬鹿か、と景吾が呆れたように言う。えええ、わたしのどこが慕われてるっていうわけ…。


「非の打ち所と言えばその鈍さくらいだろ」

「後は合格点って言うのか」

「身内云々を差し引いて見ても良い女だと思うがな、俺様は」

「うええ嫌だ面倒臭い」

「俺様の気持ちが分かったか」

「それはもう嫌なくらい」


だって今までユイさまってわたしを呼んでる人たちがもし仮にみんなそうだとしたらって仮定して考えるととても恐ろしいんだけど。好かれることは悪くはないことだけど、数にもよるわ。


「だめだ明日から笑っていられない」

「俺様みたいに堂々としてりゃ良いんだよ」

「わたし景吾みたいに自分が上だと思ってないし思いたくないんだけど」

「…なら俺様が助けてやろうか?」

「は?」


ニッ、と楽しげに笑う景吾になんとなく嫌な予感がした。助けるその方法がとんでもない気がする。そうしてそれを拒もうとわたしが口を開くより先に景吾はわたしの腕をぐっと掴んで引き寄せた。バランスを崩したわたしは椅子に座る景吾の跨がるような姿勢になった。そして整いすぎたと言っても過言じゃないほど綺麗な顔が近い、近すぎる。いくら兄とはいえこうも近いと変に緊張してしまう。


「な、なに、」

「俺様たちは恋愛に目もくれないほどのシスコンとブラコンだ、とでも言えば少しは収まるんじゃねーのか?」

「はぁあ!?」

「おまけでキスする振りでもしてみるか?」

「ちょ、景吾」


楽しげに笑ったまま景吾が言う。どうするべきかと考えていればそのままぐいっと更に腕を引かれ肩に顔を埋めるような形で抱き合う感じになった。景吾の声が耳元で囁かれる。


「てのは冗談だ」

「すごく真剣な目をしてたと思うんだけど」

「だが、あながち間違っちゃねえだろ?」

「まあ、シスコンブラコンは入ってるね」


理由はどうであれ恋愛に興味がないのも本当だ。今まで誰かと付き合うようなことはわたしも景吾も一切ない。自分から告白したことだってもちろんない。要するにそういうことだ。わたしも景吾もお互いが居れば恋人なんていらないということなのだ。


「…他の男と景吾とだったら、景吾の方がいいなあ」

「あ?」

「もしどっちかとキスしろって言われたらの話」

「…そいつがお前好みの男でもか?」

「好みは好み、必ずしも好きになるなんて分からないし、っていうか恋愛するつもりないから好みとか関係なく他の男は他の男だから」


きっぱりと言ってやれば景吾はくつくつと笑って俺様もそうかもしれねえな、なんて呟くのだった。…そもそもそんなシチュエーションに出くわすことなんて無いだろうになにを話してるんだろうかわたしたち。
















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