dream | ナノ
見たくないものを、見た。
「はぁ、」
あたしは誰も居なくなった自分のクラスの教室で廊下からは見えない、壁の所に寄りかかって体育座りしてた。最近1つ年下のマネージャーになりたいって言ってる子がいるらしく、マネージャーについて色々教えてほしいと言われた。見学に行けば分かるのに、と思ったけど彼女にも色々あるのかなと思って部活が無いという今日、教える約束をした。そうしたらたまたまそれを聞いていた光も興味があるのかなんなのかよく分からないけど知りたいと言った。だから、2人のクラスにあたしが行くことにしたのだけど、行ったらあれだもん。…いちゃつくならあたしが帰ってからにしてよ。
『ひかるくん……』
女の子が甘い声で名前を呼びながら光の首に腕を回して、それから2人の顔が近づいて、多分キスしたんだと思う。あたしはそれを見て声を掛けるのを止めたけど、でもかたんと物音をたててしまって、光と女の子と目が合った。光はびっくりした顔して、あたしを呼んだ。呼んだけどあたしは、
『急用が出来ちゃって今日、無理だって言いに来たんだけど、邪魔しちゃってごめんね』
なんて嘘を並べてそのまま2人の顔も見ずに走って、教室に来た。本当になんであんな約束しちゃったんだろう。しなきゃよかった。そもそもマネージャーなんてやらなきゃよかった。やってなかったらこんな気持ちにならなかったのに。光を好きにならずに済んだのに。どうしてあたしは光を好きになったんだろう。ネガティブな考えばかりが頭を支配する。あたしよりもあの子の方があたしの知らない光を知ってるのに。あたしが知らない、クラスでの光を。あたしは部活を引退した今、光からどんどん遠ざかってる存在で、あの子は光により近づいてる存在で。それなのに、光に同じ気持ちになってほしいなんて。
「ばかみたい……」
涙が溢れた。カーディガンに染み込んでカーディガンが湿り気を帯びる。水みたいにこの想いも蒸発して消えちゃえば良いのに。そう思いながら涙でぐちゃぐちゃになる顔を埋めた。
「…っユイ先輩!」
すぐ近くから光の焦ったような、そんな声。光が好きすぎて幻聴が聞こえ始めた?あたし頭おかしいな、なんて自虐的になっているとぐいってすごい強い力で引っ張られて、そのまま抱き締められた。視界に入るのはカラフルなピアス。ふわりと香るのは大好きな光の匂い。
「ひか、る…?」
「携帯の電源切れとるしこない縮こまっとるから探したやないですか」
「な、なんで、」
光にはあの子が居るのに、なんであたしなんかのこと探すの?震える声で必死に言葉を紡ぐと光のあたしを抱き締める力が強くなった。
「いたい、ひかる、」
「阿呆なこと、言うなや」
敬語が外れてる。それにそんなこと言われたのも初めてのことで、言葉に詰まった。
「先輩が居るからあいつ置いてきたんや、」
「え?」
「先輩が見たのは全部、あっちが無理矢理してきたことや。俺はあんなのより先輩がええ」
「ひか、」
る、と言う前に口づけられた。それも角度を変えて何度も何度も、深く口づけられた。唇が離れた時は、息があがってて涙も流れるのを止めていた。
「先輩以外、いらん」
「あたしも、光じゃなきゃやだ」
光は何も言わずに優しく笑った。
さながら赤い糸
(ユイ、結局あいつマネやらんて)(ふーん…、って敬語!学校では使ってよ!)(別に付き合っとるんやしええやろ)(…そういう問題じゃない気がする)(細かいことはどうでもええわ)